高原にある牛伏川階段流路をめぐる風景は季節ごとに、いや同じ季節でも日によって、さらに時間帯によって大きく変化します。
雨降りが続く今年(2017年)8月中旬のある一日の午前10時から11時頃の風景を訪ねてみました。その日の未明まで雨模様で、日が昇ると渓谷沿いの上昇気流に乗って松本平から霧が上ってきました。
霧の合間からところどころ夏の陽射しが差し込んで、間近の雨上がりの鮮明な光景が見える一方で、彼方は霧に霞んでいます。幻想的な高原の夏の景観です。
▲霧に包まれたダム湖の水面は静謐を写している。
▲階段流路の上の方は霧のなかに消えていき、目の前の鮮明な光景とは著しい対照なしている。
▲渓谷の上流部は見えない。近くの水面はこんなに輝いているのに……。
私としては雨上がりの鮮明な景観写真を撮るつもりでここに来たが、雨上がりの高原には下から大量の雲が上昇してくるという常識を忘れていたようだ。河畔の草原は濡れていて歩きにくい。
ところが、そんな日でも河畔のキャンプ場にはテント宿泊者がいた。空から雨が落ちてこようが、地面が濡れていようが、ここは街場の喧騒を逃れて静かな山の雰囲気を味わうには最適の場所だ。
雨上がりに牛伏川上流部に来て正解だった、と感動したことがもうひとつあった。
平地ではまず見られないミヤマカラスアゲハを何頭も見ることができたのだ。牛伏寺の下でひとつがい、そして泥沢川との合流部でもうひとつがい。ともに泥か水を求めて飛んできて、河床や壁面にとまっていた。
つがいで飛んでいるということは、ここが産卵地・繁殖地だということを意味するだろう。つまり、彼らの幼虫は孵化後に、このあたりのいずれかの植物――キハダ、カラスザンショウ、ハマセンダなどらしい――ンの葉を食べて育つということだ。そういえば、遊歩道の傍らにサンショウが生えていた。
河畔の樹林では蝉時雨がかまびすしい。ここは昆虫のサンクチュアリとなっている。
▲階段流路の河畔は人気のキャンプ場になっている。
▲「落石注意」の警告。やはり山岳のなかだ。キャンプ場は急斜面の谷のなかにある。
▲「松建小屋」の下の本流(左)と泥沢との合流部。
◆この渓谷は、ミヤマカラスアゲハの生息地のようだ。
▲泥沢川の河床に1つがいのミヤマカラスアゲハが舞い降りて、水を取っていた。