今回は、鎌倉末から室町時代、さらに戦国時代まで続いた耳取城の城下街集落を歩いて探索することにします。千曲川河岸河岸段丘を支流の小河川が浸食して形成した田切地形の高台面に形成された集落をめぐります。
  小諸道沿いの宿場にも似た集落で、徳川幕藩体制が成立してからは、この集落は小諸藩領の農村集落となり、禅刹の玄江院と弥美登里神社の門前町でもありました。

◆古い城下街の趣きを残す豊かな集落◆

大手道の南側から玄江院本堂の大屋根が見える


明治期に建設された新小諸道だと見られる

◆小諸道と大手道、玄江院参道◆

  現在残っている集落の屋敷割は、江戸時代になってから形成されたものだと見られます。室町以前の城下街の遺構はほとんど残っていないようです。
  とはいえ、中心的な街区の家並みは、小諸道から耳取城本丸に向かう大手道沿いにつくられていることは、明白に読み取れます。
  戦国時代に耳取大井氏は武田家に臣従しましたが、武田家が滅びると、依田信蕃の家臣となり徳川家の勢力下に入りました。1590年、豊臣家によって徳川家康が関東に移封されると、耳取大井家は依田家の家臣とし上野藤岡に移りました。
  このときに耳取城は廃城となり、徳川の覇権がなるや耳取郷はまもなく小諸藩に編合されたようです。したがって、この時期以降に、旧耳取領の遺構に今日に続く集落が形成されたものと見られます。
  集落には、小諸道と耳取城の旧大手道、そして弥美登里神社前で小諸道から分岐して玄江院に向かう参道という３つの主要な道が通っていました。これらが集落の軸となった道なのです。

家並みの間の小路の先に浅間山が見える

◆明治～昭和の繁栄で姿を変える◆

  小諸地方は幕末から昭和期にかけて稲作と養蚕を中心に農業が成長し、製糸業を中心に経済的に発展したことから、街並みの姿は大きく変わってきました。ことに昭和期の変化が大きかったようです。
  豊かな農村となったことから、茅葺古民家はほとんど残っていません。とはいえ、明治期から昭和期に盛んになった養蚕業に適合した農民家屋の広壮な造りの面影はいまだに残されています。
  また、小諸道や大手道沿いに大きな商家だったであろう瓦葺きの重厚な屋敷もいくつか残されていて、幕末から昭和期までの集落の繁栄ぶりも窺い知ることができます。

公民館の斜向かいにある地蔵堂と石仏群

重厚な土塀と薬医門が格式を感じさせる

◆大手道沿いから小諸道沿いへ◆

  私は耳取城の観音堂曲輪跡から馬場後にのぼっていく大手道の遺構に沿って歩き始め、「筋違いの辻」（小諸道との交差点）の近辺で路地を南に曲がって耳取公民館まで引き返し、地蔵堂から小諸道沿いに玄江院の楼門までめぐりました。
  往時の集落の中心部を一巡りすることになりました。

巻頭写真の広壮な屋敷の南側にある袖壁付きの薬医門


ごく初期の桝形遺構が残る玄江院脇の小径