牛伏川フランス式階段流路の工法

源流部の山腹斜面の施工技術

  まずフランス式階段流路の最上部の工法を、現地にある説明板を引用して説明します。下に掲載した写真はその説明板からの引用。
  「写真A」は竣工後の状況を示すもので、牛伏川となる水流が集まる山腹全体を石積みの斜面ならびに水路――少し凹ませた形――で覆ったのです。
  急斜面に降り注いだ水が斜面を穿って土砂を押し流して別のところに積み上げることから急斜面の崩壊が引き起こされます。そこで、山腹斜面を石垣で覆うことで、穿ちと堆積による斜面の変形を防ぎます。
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■張石水路の技術■



  斜面を少し下ると降水がある程度集まることで流れをつくり出します。その流れを、少し凹んだ石積みの水路に流れ込むようにして、流水を集め誘導するのです。
  そういうわけで、水路は樹形状になっていて、小枝が大枝に、大枝が幹に集まるように流水を集めてしながら本流に流し込み誘導するのです。
  この工法は、源流の最上部に施されたもので、標高1600メートルの地点から標高差200メートルの斜面にこの工法が施されています。こうして、標高1400メートルあたりで主要な沢筋が形成され始めるようです。

  ところで、この石積みではコンクリートが使われていませんから、無数の積み石の隙間から降水は地面に浸み込んでいきます。つまり、すべての降水が石垣の上を走る水流になって流路に集められるわけではありません。地下に浸み込んだ一定量の水は地中に浸み込んで、そのうちのわずかな量が地下水脈や帯水僧に蓄えられ、長い時間をかけて伏流として流れ下ります。
  こうして、浸食や堆積で斜面を変形破壊するような水の作用を防ぐことができます。

  このようにして山腹の急斜面全体を整形して、その変形と崩落を回避するという仕組みになっています。

■積苗工の技術と工夫■

  このように石垣擁壁で補強された斜面(法面)に土砂を被せて薄い土壌を形成し、その表面に芝草を植えて覆土の流出を防ぎます。斜面は石垣の「防壁」で覆われていますから、自然のままの斜面土壌のように変形崩壊する危険性は著しく小さくなります。
  斜面が長いと下に行くほど降水が集積して流れ、土砂流出の危険が大きくなるので、何列かの水平面の小段を設けて、土壌をつくりそこに苗木を植えて樹林を形成します。植物の根が保水するとともに地面を把捉して安定した土壌を形成します。

■現在の斜面の姿■

  上記のように、牛伏川源流部の山腹斜面は石垣擁壁に覆われ、その上に土壌を盛り植物を植えて、生態系全体を再生したということになります。
  それから100年以上が経過した現在の様子を示すのが、右の写真です。
  山腹の斜面全体が草と樹林に覆われています。かつてはハリエンジュとアカマツが中心の植生でしたが、現在では、土壌と生態系の安定により適したカエデ類やミズナラ、コナラなどの落葉広葉樹に植え替えて、森林の相を組み換える事業が進められています。
  それにしても、山腹は大変な急斜面です。ただ登るのも難儀な場所に石を積んで土壌を盛り、植林する作業たるや、いったいどれほどの労苦がともなったのでしょうか。先人の知恵と苦難・努力に脱帽するしかありません。

源流部の絵地図(流路脇の案内板から引用)

階段流路の施工法







  現場に設置されている説明板から写真と内容を引用しています。

  牛伏川の階段流路は、1911年頃にヨーロッパに派遣された技師がフランスで学んだ工法にもとづいて設計され、1917〜18年に施工されました。
  右の平図面にあるように、第1石堰堤では、長さ141メートルの流路に19段の階段が設けられています。
  この施工法のもとになったフランスのサニエル渓谷の階段工法(一番上の図)はかなり厳重な造りに見えます。施工場所の地形や地質による違いもあるのかもしれませんが、牛伏川の施工技術の方が簡略に見えます。
  この違いの原因は、工法の単純化の要請もあったのかもしれませんが、降水量がはるかに多い日本では、むしろ簡略で隙間の多い石組みによってより多くの流水を地中に浸透させることで、流水量を分散・限定する必要があったためではないでしょうか。

  右の「横断図」では、角が取れた石を配置しているようにも見えますが、実際には石の形状を整えて、緩みやズレが容易に生じないように組まれています。城郭の石垣積みの工法などが参考にされたかもしれません。

  自然を厳格に管理しようという思想の強いヨーロッパに比べて、日本では人的な加工の度合いをより小さくして、自然のありように合わせようとする傾向が見られるように思えます。
◆雨上がりの階段流路畔の散策◆

階段流路中流部からダム湖までの絵地図(案内板より引用)

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