野尻駅近くの旧中山道沿いに「里山のカフェテラス 珈琲どんぐり」という店があります。 だいたい30年くらい前に建てられた店舗ですが、内部の造りを見ると、木曾での伝統的な建築方法でつくられています。とくに天井を見上げると、茅葺古民家の構造と似ています。店内には古い写真が掲げられています。すごく貴重な歴史的資料です。


◆珈琲どんぐりとSL写真◆



中山道脇のカフェは山小屋風の外観です




▲入り繰りドアを入ってカウンターを眺める


▲こじんまりした店内の様子

  カフェの経営者ご夫妻の話では、30年ほど前に劣化したネガフィルムが発見され、ここに飾られているのは、運よく紙焼き(印画紙焼き付け)できたものだそうです。したがって、ここに掲載した写真は室内で私がデジタル撮影したデータによるものです。
  原本の撮影年代は1950~60年代半ばのようです。

  江戸時代に尾張徳川家の直轄領だった木曾の山林は、明治維新で皇室の御料(直轄地)となって、その管理のために巨額の投資が必要となったこともあって、経営の困難さからやがて国有林となりました。そして林野庁の管轄下で木曾地方の各営林署が山林経営と管理をおこなうために、個別に森林鉄道を敷設経営することになりました。路線は20におよび、そのいくつかは統合され、相互に連絡するようになりました。しかし、高度経済成長の進展とともに、1950年代末から60年代半ばにかけて道路網が建設され、輸送の担い手が自動車になると、鉄道は順次廃止されていったようです。

■カフェは街の歴史と文化の資料館■

  信州の中山道宿場街にあるカフェやレストランの多くが歴史や生活文化の博物館の機能を付随させています。野尻宿の街道脇にある2つのカフェもそうです。そのうち今回は《里山のカフェテラス 珈琲どんぐり》を訪ねてみます。
  飲食のメニューはもちろんおススメなのですが、私の一番のおススメは、店内に掲示されている昭和期の野尻の鉄道写真です。
  中山道が通っている木曾谷で、野尻地区は珍しく木曾川沿いに平坦地が確保できる地形です。谷底の河岸段丘の平坦地にある程度の規模の鉄道施設を設けることができて野です。
  野尻駅を中心として、鉄道軌道の終結と切り換え、今はなくなった森林鉄道を引き入れて、牧西の集積と国鉄の貨物への積み換えができる設備を設けて運営していました。
  自然環境が厳しい山中の山林を活用した産業と文化が息づいていたのです。

  ところで、木曾森林鉄道の発足は1817~21年頃とか。廃止されたのは1958~64年。地区ごとに路線や設備などによって着工・竣工年代が異なり、開業年も場所ごとに別々。しかも複数で発足した鉄道会社はやがて路線が結合したり、経営も合同したりして、木曽森林鉄道として正式に発足した年月の記録は統一されていません。廃線・廃業も年月もバラバラです。

 
1960年代冬の野尻駅構内で三留野方面に出発する機関車が率いる列車。
背景に迫るのは、雪に覆われた中央アルプス木曽駒ケ岳。


読書(現南木曽)方面に向かう列車。1950年代の撮影だと見られる。


木曽森林鉄道殿阿寺橋梁を走る木材運搬貨車。動力はアメリカから輸入した機関車。撮影は1958年頃か。


野尻駅構内の森林鉄道の機関車。撮影は1955年頃か。

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