上松宿を出て鬼淵の畔に近づき、北に向かって進んだ往古の中山道はどのような道筋だったのでしょうか。国道19号上松バイパス第３トンネルの建設によって、笹沢の辺りでは旧中山道の痕跡はまったく失われています。
  今、笹沢の上の尾根を回り込む狭い林道遊歩道が残されています。おそらく旧街道の跡に沿って開削された細道ではないかと思われます。 そんな道や地形を探索しながら、旧街道の道筋を推定してみます

◆沢を越え尾根中腹を辿る杣道◆

  上掲の絵は、上松宿上町を出発して鬼淵の畔に降りてから愛宕山の西麓沿いに新茶屋辺りまで、江戸時代の中山道の蜜筋を推定したものです。
  現在は、旧国道が十王堂交差点から国道19号上松第３トンネルの北口に連絡し、鉄道ＪＲ中央本線が国道の西横を通り、国道と立体交差して沓掛方面に向かっています。
  旧中山道は鉄道線路の下に埋もれているようです。

上松第３トンネル北端の上の丘から国道を見る


尾根中腹を回り込む遊歩道入り口

◆笹沢を渡って東岸の急国道まで◆

  上松第３トンネルの北口の上にある尾根丘の北脇は谷間になっていて、そこに急勾配の山腹から滝と呼ぶべきような笹沢が流れ込み、ほぼ南西向きに木曾川に流れ落ちていきます。今、沢は国道の下を暗渠でくぐって横断し、木曽川に注ぎ込んでいます。
  笹沢を超える橋の脇に細い林道遊歩道が設けられています――森林管理と鉄道保線のための道か。おそらく、往古の中山道もこのような細道で尾根を回り込んで木曾川左岸の山裾に辿り着いたのではないでしょうか。
  笹沢の北に迫る尾根は木曾川の縁まで続き、崖と呼ぶべき急傾斜で木曾川に落ち込んでいきます。往古、河岸を安全に歩けるような道はつくられることはなかったでしょう。東岸を北に進むためには、尾根中腹を等高線と平行に――弧を描いて――トラヴァースするしかなさそうです。
  往古の街道の痕跡は見つけられそうもないので、国道19語まで戻って笹沢交差点の北で右折して木曾川左岸（東岸）の旧国道を歩くしかなさそうです。
  昭和期になると、爆薬による岩壁の破砕や重機による開削で木曾川左岸に幅広い道路を建設することができるようになりましたが、往時は、人力だけで道を開くしかなかったのです。
  それでも、明治時代には、木曾川左岸に荷車や馬車が通れるほど――幅1.8ｍくらい――の道路を新街道として開いたのだとか。

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「新中山道」は木曾川左岸の旧国道に戻る

◆「新街道」の跡から新茶屋まで◆

  左岸道路に戻って北に進むと東脇に駐車用スペースがあります。その先に、今では使われていないため荒れ果てた、旧式のコンクリート舗装道路が見つかりました。舗装はいたるところでひび割れて野草が覆い、路面を隠しいます。
  道幅は1.8メートル近くあって、上り口の脇に「中山道」と記した標柱が立てられています。緩やかな傾斜の坂で、昭和後期までは利用されていたようです。100メートルも進まないうちに、下り坂――そこはアスファルト舗装――になって、東岸道路に合流してしまいます。
  ところが、そこから鉄道保線用の管理道路に続く道があるので、線路脇までのぼってみました。すると、線路の西脇に北に向かう小径があるので、進んでみると、廃墟となった古民家があって、道跡が樹林のなかをさらに北に続いていています。しかし、民有地で先には進めません。

  ふたたび左岸道路に戻って木曾川を見おろしながら、北に進むことにしました。
  100メートルくらい歩くと、板橋沢の谷となり、沢沿いに東に向かってのぼっていく道路があるので、沢沿いの尾根丘をのぼってみました。高台上には葬斎場と町の浄化施設などがあります。
  尾根丘は整備造成されて地形は均されています。この辺りは新茶屋という地籍だということで、往古、この辺りに立場茶屋があったそうです。
  この高台は、南側の谷間を流れ下る板橋沢と北側の谷間を流れるドドメキ沢とに挟まれた、比較的に傾斜の緩い尾根の上に位置しています。休憩地として立場茶屋を設けるのにかなっています。
  ここからさらに300メートルくらい北にもう１本沢があって、標高800メートル前後の中腹の谷間に小さな扇状地を形成しています。尾根裾を回り込んで安全に木曾の桟にいたる経路があったものと推察されます。

新茶屋地籍の丘の上の町施設（葬斎場の下）


高台から上松方面から来る鉄道を見おろす