原野の木曾川左岸の丘の脇に原野八幡宮という神社があります。旧中山道からは北西方向に木曾川に向かう小径を通って、現在のＪＲ線路を越えた北側に位置しています。鉄道建設でこの辺りの地形は改造されたようですが、境内の南側に無佐沢川が運んだ土砂の堆積でつくられたと思しき小丘が横たわっています。
  社殿の背後の鎮守の杜のなかには石垣跡があり、もともとこの地が領主の居館であったのではないかと見られます。

◆河畔の領主館跡に創建されたか◆

跨線橋を渡った小径はこの先で東に直角に曲がる

◆鳥居前に桝形跡があったという◆

  旧街道南側の無佐沢川河畔に石仏群がありますが、その辺りから段丘上の氾濫原が原野八幡宮の辺りまで続いています。そして、鳥居の南東側には土塁のような小丘があります。
  ＪＲ原野駅の脇の跨線橋を北進して八幡宮に向かう小径は境内の前でＹ字路になり、東側の小径は坂を下って直角に東に曲がります。鳥居前を西に向かう小径は境内への参道となっています。跨線橋をつくるために路盤が嵩上げされたようです。
  原野の集落と八幡宮の伝承によると、明治時代までそこに桝形跡があったそうです。城館の桝形虎口だったものと見られます。そして、境内の北側(（社殿の背後）にはの社叢――ヒノキ、モミ、スギなど針葉樹を中心とする混合林――は木曾川の岸辺の自然林まで続いていて、その一角に石垣の跡が残っています。
  その遺構から推定できるのは、往古、ここに戦国時代末期の木曾氏の城館または居館があったのではないかということです。
  八幡宮をめぐる伝承によると、戦国末に徳川の覇権が固まっていく過程で、この地の領主木曾義昌は常総方面に移封され、豊臣側に与したため関ケ原の戦の直後に改易され、木曾地方は徳川家の直轄領になります。この地に残った木曾氏の遺臣たちの多くはこの地に残り農村開拓を指導する郷士になったそうです。彼らは1598年（慶長３年）、旧領主の館跡に八幡群を創建したのだとか。

雨除けの蓋廊から本殿を見上げる

◆慶応の改築と平成期の改築◆

  さて、拝殿の奥にある本殿は流造りで、慶応元年（1965年）に改築されたようです。前流れが緩やかに曲がりながら前に長く伸びて向拝となっています。とりわけ珍しいのは、雨除けの牧西の「うだつ」が屋根の両側に左右対称に設けられています。
  壁が漆喰塗工となっていない珍しいうだつは、1891年（明治34年）に築かれたそうです。
  その後、八幡宮創建400年を記念して1998年（平成10年）に本殿・拝殿・鳥居・社務所が改修され、拝殿と本殿をつなぐ雨除け渡廊が新設されたそうです。

◆例祭の長持行列◆

  原野八幡宮の例祭で奉納される長持行列は有名です。10メートルほどもある長い棒に吊るした長持を青年会のメンバーが担いで集落の道から境内まで運びます。
  この行事が始まったのは、今から100年余り前で大正期の中頃だったようです。明治時代から原野や宮ノ越の大工や杣人が多数、諏訪地方に出稼ぎに出向いていたのですが、そこで祭礼で催されている長持行列を倣い覚えて持ち帰り、八幡宮の奉納行事としたと伝えられています。