手習天神社・薬師堂を出発して栗本の集落を歩き、正沢川の畔で旧中山道の跡を探索します。河畔の草道の先に沢を越える小さな鉄の橋が見つかります。
  これを渡って河岸段丘をのぼると小沢集落で、ここら辺りは木曾町立相撲場の裏手（北側）に当たります。ここから宮ノ越の手前まで、河岸段丘の上を往く旧中山道沿いに長閑な田園風景が続きます。このうち今回は元原の中山道中間点まで歩きます。

◆正沢川を越えて◆

◆天神川と正沢川を越える◆

  上田から宮ノ越までは、北から延びる険しい尾根と木曾駒ケ岳から北西ないし北に延びる尾根とが出会う谷間を流れる木曾川の左岸に開けた細長い平坦地に位置しています。
  木曽山脈の深い谷から流れ下る何本もの河川や沢は水量が豊富で、木曾川の左岸にいくつも連なる複合扇状地をつくり出しています。細長い平坦地の河岸段丘面に集落群と街道が形成されたのです。

旧街道に沿って出桁（出梁）造りの町家が並ぶ


ここで相撲場に向かう道から河畔に降りる

  手習天神社は、木曾川の支流、天神川を北に見おろす段丘上にあって、上田と栗本の境界に位置しています。旧中山道跡につくられた舗装道はこの川を越えて北東に向かいます。
  舗装道路はおよそ200メートル進んで右の曲り東に向かいます。この道の先には木曾町立の相撲場があって、大相撲の力士たちがときどき稽古合宿にやってくることで有名です。
  その曲がり角で段丘の下に降りていく細道が旧中山道の道筋だということです。道は正沢川河畔の草地に出て、草道の先に小さく貧弱な鉄の橋が架かっています。往古、中山道の橋がどこにあったかわかりませんが、今は、この小橋が中山道遊歩道が正沢川を渡る経路です。

河畔の草地のどこかを中山道が通っていた

◆小沢集落を歩く◆

河畔の樹林が細道に覆いかぶさっている

  正沢川は流水量が大きく流れが激しい危険な川ですから、江戸時代にここに橋を架けるのは大変だったでしょう。増水のたびに壊されたり、流されたりしたものと見られます。
  対岸小沢集落で、河畔は樹林帯と深い草地を通る野道になっています。木製の白い道標がところどころに立っているので、何とか道筋をたづることができます。野道は樹林の縁を通って河岸段丘崖をのぼっていきます。
  崖をのぼったところで、この集落に住んでいるという４人連れの女性の家族（祖母・母・子の３代）と出会いました。彼女らはいつものコースを散歩中していたそうです。自然に恵まれた環境のなかで暮らす幼い女の子は、夏にカブトムシを捕まえて飼った経験を話してくれました。
  

小沢の中山道跡。この先（西）に氏神社がある

  正沢川は、木曾駒ケ岳から北西に延びる尾根峰、麦草岳と赤林山の中腹から続く木曽駒高原の谷間の西端を流れ下る大きな渓流です。この川は、木曾川の畔で西に蛇行して西向きに木曾川に合流します。小沢集落は、小沢川が河畔に形成した扇状地の西端に位置しています。
  扇状地の東端にあるのが原野集落です。原野は、宮ノ越と小沢の中間にあります。
  小沢は木曾義仲の後見人、中原兼遠の居館の西側に開けた平坦地で、宮ノ越は木曾義仲の本拠が構えられた集落です。したがって、小沢と原野は平安時代後期から農耕地と村落が開かれていたはずなのですが、その頃の遺構はまったく見つかりません。
  鎌倉から室町中期にかけて荒廃した後、藤原系木曾氏の指導のもとで室町後期から江戸時代にかけてにふたたび開拓がおこなわれたと見られますが、この時代の開拓によって古代から中世前期の歴史遺構は失われてしまったのかもしれません。

中山道木曾路の中間点に立つ案内板