段丘斜面の中腹から湧き出る水は「竜の口」から流れ出て、旅人の喉を潤した。 |
旧中山道を南に向かい、諏訪大社下社春宮の脇で南東方向に曲がってから200メートルほどで「竜の口」の石段にいたります。
竜の口とは、道の北側斜面から湧き出る水の注ぎ口となっている竜の頭の彫像を意味します。江戸時代の文政年間に石工、山田金右エ門がつくったと伝えられています。
街道脇にあって竜の口から流れ出る清冽な清水は、中山道を往く旅人の喉を潤したことでしょう。
ここは禅寺、白華山慈雲寺へ登る参道の石段の登り口で「大門口」と呼ばれる場所です。
今残っている高麗門はさほどに大きな門ではないので、その昔には大門と呼ばれた大きな門――慈雲寺の楼門に匹敵するほどの――があったのではないかと、私は勝手に想像しています。
慈雲寺は鎌倉時代に創建された臨済宗の禅寺です。その頃、諏訪大社下社春宮を采配する大祝金指の家門は、近隣一帯の領地を守るために武士団を形成していったといわれています。
そういう背景から、金指一族は春宮の鬼門にあたる北東側に、武士の宗教でもあった禅宗・臨済宗の寺院を創建しました。諏訪大社春宮を構成する寺院、慈雲寺は信州でも最も有力な禅寺となりました。
戦国時代には、諏訪に勢力を広げた武田信玄によって手厚く保護されたと伝えられています。下諏訪にも名湯と言われる温泉がいくつも湧き出ているので、いかにも信玄が好みそうな場所です。
今では、信州では臨済宗妙心寺派の筆頭寺院となっているとか。
してみると、この大門口・竜の口の石段参道は、春宮と結びついた歴史景観ならびに自然景観のひとつと位置づけて歩いてみるべきでしょう。
この参道をゆっくり登りながら、傍らに立つ数えきれないほど多くの石塔や石碑を眺めるのてみませんか。 |