知のネットワークをめざして

文法と哲学

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4 ストーリーは偽を真にする
 ――修飾語を考える――

  さきほど、「動物は犬だ。」という文はそれ自体では偽である、と述べました。ところが、もっと大きな文脈のなかに位置づけ直していくと、説得性のある文章の構成要素になることができます。この大きな文脈を組み立てていくのがストーリーです。
  といっても、それは「白を黒といい含める」というような乱暴な論法ではありません。むしろ、文は全体的な文脈のなかではじめて正しい内容を持つということです。
  それは、次の文章のように、歴史的な文脈のなかで犬の特徴・属性を考察することになります。

  大昔、野生の狼(あるいはジャッカルかもしれない)のなかに、偶然、人間社会(家族)のなかに取り込まれた個体(複数)がいた。親から離れた幼獣(人への警戒心が育つ前に)に人が餌を与えたために、人になついたのかもしれない。
  それらの個体のなかに、人間との生活に馴染み、群や群のボスの権威に従うという狼の習性が土台となって、狩猟や見張りに役立つ人間に従順な成体に育ったものが現れた。
  そして、そのなかでも、人間社会での生活のストレス(病気など)に耐えて健康に育ち、人間にとって有益な狼の特性を発揮する個体が現れた。
  このような偶然の経験から学んだ人は、やがて人間に従順に生活する(人間にとって好ましい)個体の雄と雌をかけ合せてその子孫を産ませるようになった。
  こうした交配を幾世代も繰り返すうちに、家畜として、はじめから人間に依存して生まれ成長する動物の種が発生した。

  この動物は、犬である。

 

  これは、一般に犬の生物史的な発生について語られていることがらを、私なりにまとめたものです。この場合、ストーリーは、人間社会のなかで「動物」がどのような属性を備えていって犬となったかを「詳しく説明」しています。すなわち、

  @ 犬の祖先は狼やジャッカルらしい。(群や家族に従順である)
  A 偶然、人間が育てることになって、人間社会になついた。
  B 従順で有益な個体を人間は交配して、より好ましい個体を生み出していった。
  C 交配が繰り返されて、新たな生物種が発生した。

  このように、あることがらを特定するために詳しく属性を付け加えることを、文法上「修飾」といいます。ここでは、ストーリーによって修飾して、属性を詳しくして、「動物が犬である。」という文を論r的かつ文脈的=意味的に正しいものに転換しました。これこそが、文脈の強みです。
  そして、文のなかで、構成要素としての主語(名詞:体言)や述語(動詞・形容詞・形容動詞:用言)を詳しく説明する言葉を「修飾語」と呼びます。小学生低学年では「かざりことば」として学びます。
  上の例でいえば、「動物」を詳しくする「この」が修飾語で、文法上、「連体詞」といいます。名詞=体言にしか連結しない言葉(品詞)だからです。
  このように、名詞=体言に連結してそれを修飾する語を「連体修飾語」といいます。いくつか例をあげてみましょう。

  ・[あの]本(連体詞)
  ・[赤い]花(形容詞)
  ・[大変な]事件(形容動詞)
  ・[泳ぐ]魚(動詞)
  ・[投げられた]石(動詞+助動詞)

  連体修飾語になる語は、連体詞を除いて、すべて用言――動詞・形容詞・形容動詞・助動詞など活用されて語尾が変化する――で、活用語尾の形は「連体形」といわれる形です。そのなかで、「投げられた」は、「投げる」という動詞の未然形に、受身を表す「られた」が合成された言葉です。詳しくは「られる」の連用形に「た」という過去・完了を表す助動詞の連体形が加わった、複合助動詞です。

■文章作成の課題 論述の練習■

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