鳥居峠越えの道は、尾根の峰と峰の間の谷間を歩いて峠を越えるコースだ。その昔、人びとは奈良井から薮原まで、標高差をできるだけ小さくして安全な経路をたどろうとしたことから、このような峠越えの道ができたのだろう。
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初夏には若葉が美しい峠道 |
石畳は数十メートルで終わり、そこから先は山中の遊歩道、森のなかの登山道になる。杉やミズナラ、松などが混じった深い雑木林に囲まれている。
1キロメートルちょと行くと、道を左に折れて展望台に向かう道がある。晴れていれば、展望台から南東方向に木曾駒ケ岳が遠望できるという。
中の茶屋という休憩小屋を過ぎると、道はさらに深い山に入り込む。
小径は、おおむね南に面した斜面に切り開かれた杣道で、左側が谷になっている。峠山と高遠山とを結ぶ尾根を横切る谷間を抜ける道だ。
奈良井から南西の方向に見える2つの峰のあいだの谷間を行くわけだ。たぶん高低差を少なくして安全に稜線を抜ける峠道なのだ。
けれども、深い谷を回り込むために、一度は険しい尾根を越えなければならない。急峻な斜面にへばりついたつづら折れの道を、息を切らせて登ることになる。
ここが一番の難所だ。
この急斜面を登り切ったところで木造の小さな橋を渡ると、ごく緩やかに下る平坦な道になる。
起伏の少ない道を左手に谷を見下ろしながら進むと、やがて幹の直径が1メートルを超えるトチの老樹が目立つようになる。トチの巨木の幹の太さからすると、最大のものは、樹齢が500年前後かそれ以上になると思われる。
しばらく歩くと、トレッキングコースの中ほどにある休憩ヒュッテに着く。きれいに整備された小屋で、テイブルや椅子、ベンチなどが設置してある。小屋の外には湧き水を利用した水場がある。冷たく澄んだ水を得ることができる。
小屋の東側は藪が駆り払われていて、東側に展望が開けている。送電塔の脇から展望すると、彼方に平沢郷の集落が見える。残念ながら、奈良井宿は、山腹と深い森の陰に隠れてしまっているようだ。
このあたりが峠の頂上らしい。
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峠道は森のなかを行く
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トチの巨木
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谷間に平沢郷が見える
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峠の頂上付近
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そこから先は、緩やかに下る道になる。そして、トチの老巨木が群生する地帯になる。
太い幹周りのトチの老樹が、道を縁取るように並び、山側にも谷の斜面にも数え切れないほどのトチの木が生えている。崖と呼べるほどの斜面にどっしりと根を張り、太い枝を四方八方に広げて周囲を睥睨しているようだ。
根元を見ると、トチの実から芽吹いてまだ10年もたっていないと思しき幼木もあちこちにあって、幼弱なか細い幹と枝からあの大きな葉を何枚も広げている。数百年後には、この幼木たちがこのあたりの森の長老として君臨するのかもしれない。
そんな世代交代が、これまで数千年も続いてきたのだろう。
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