塩尻から出発して中山道を上ると、贄川宿、平沢郷を経て奈良井宿にいたる。往時の街道だと、塩尻から奈良井までおよそ10里。
深い谷の底を行く街道だ。
往時の旅人は、山裾の鬱蒼とした森林に囲まれた道を歩いて奈良井に到着したであろう。
山裾を行く街道の傍らには、古くから人びとの手が入った杉並木があったという。往時、人びとは杉の根元を踏むように歩いて街道を旅したのだろう。
狭い杣道で、それこそ人びとは「袖すり合う」ようにすれ違ったのだろう。
現在の道で、平沢から奈良井まではおよそ3キロメートル。試しに歩いてみるといい。
奈良井の街筋の東の端、駅舎に迫る山の斜面の上に八幡宮がある。
奈良井駅の西側から北東向き、車1台がやっと通れるほどの舗装道路を登っていくと、八幡宮社殿に登る石段がある。石段の途中から右に折れると、杉並木を通って二百地蔵に行き着く。
この杉並木の小径が往時の木曾路だったという。
この小径を覆う杉並木は、往時の木曾路の姿をとどめているという。そして、その昔、八幡宮が奈良井宿の入り口だったそうだ。
八幡宮と二百地蔵から下ったところ、今は奈良井駅がある地点の西側から宿の街並みが始まる。
奈良井宿の手前で深い森を抜けた旅人は、開けた光景のなかにたたずむ街並みを見て大きな安堵感を抱いたに違いない。
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