いったいに木曾路の鉄道駅は、街集落の外れにある場合が多いようだ。 【⇒街筋の絵地図を見る】
信州の鉄道駅は、郊外ともいえるほどの街外れにあることが多かった。家が建て込んだ古くからの街中に鉄道施設を造るのは、面倒だったからだろう。
やがて、交通網の拠点である鉄道駅の周囲に宿泊施設や飲食店舗が集中し、駅の周囲と町の中心部とを結ぶ商店街ができた場合も多い。
だが、奈良井駅は今もやはりつつましく街外れにある。本来の街筋から70メートルほども離れているだろうか。その分、歴史的な街並み景観の保存には役立ったといえる。
狭い木曾の谷間を走る鉄道は単線で、単一のプラットフォームで上下線を分けて乗降させるように、駅の近辺だけ複線になっている。2本の線路のあいだにプラットフォームがあるので、列車の乗降客は線路をまたぐ歩道橋を渡ることになる。
さて駅舎から南西に向かうと、街道の両側に町屋が続く街並みに入る。町屋の列は、ごく緩やかに登る坂道に沿って続く。また、街道は緩やかに曲がっているので、数百メートル先で、その先の道も家並みも見えなくなる。前景の背後に隠れてしまう。
このごくわずかな登り傾斜と曲がり具合とが、街並みにみごとな奥行き感を添え、街歩きする人びとに探索の期待を抱かせる。
あのカーブの向こう側にある街並みはどうなっているのだろうか、行って眺めてみたい。そういう期待で、町歩きが楽しくなる。だが歩みを速めず、今目の前にある家並みとか家の造りや雰囲気をじっくり眺めながら行こう。
さて、下町から歩き始めると、家並みのあいだを行く道は、中町に近づくにつれて幅がしだいに広くなる。
街筋の中央部では、はじめの倍以上の広さになる。中町を過ぎると、ふたたび狭くなっていく。そして、鍵の手の辻でクランク型に折れ曲がる。そこから道は坂の傾斜をわずかに増しながら上り、鎮神社に行き着く。
ここから鳥居峠を越える山道が始まる。
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