奈良井は、馬籠や妻籠と同様に、往時の街並みがそっくり保存されている。保存されている規模(街筋の長さ)は、木曾路で最大だという。おそらく日本全国でも最大ではないだろうか。
およそ1キロメートルあまりにもおよぶ古くからの
街並みが、そっくり残されているのだ。町全体のなかの一角が歴史的景観として保存されているというのではない。街並み全体がそっくり歴史的景観となっているのだ。
言い換えれば町全体が、人びとの日常生活とともに歴史的景観として生き続けているのだ。素晴らしいことではないか。
歴史的景観の保存活動は、1968年頃から半世紀近くにわたって積み重ねられてきたという。1978(昭和53)年には、「重要伝統的建造物群保存地区」に指定された。
もちろん、歴史的景観としての街並みは、映画のセットのように、人びとの日常生活からすっかり切り離されたところに孤立して保存されてきたわけではない。人びとの日々の生活の場として息づきながら、全体が保存されてきたのだ。
したがって、そこに生き続ける人びとの生活と折り合いをつけながら街並みが生きてきた。生活の場として生き残るために、いくぶんかの変化を受けてきた。時代時代の人びとの美観やイメイジにかなうように変化してきたのだ。
その一番の変化は、格子戸や格子窓だ。一階の通りに面した側は、往時はだいたいが蔀(しとみ)だったというが、今では格子戸や格子窓に変わっている。二階の造りが一階にもおよんだというわけだ。
そして、次が家屋の高さだ。江戸期から明治、大正、昭和と時を経過するほどに、建物の高さが高くなってきたという。建築技術や生活様式、人びとの体格が変化したからだろう。
いずれの変化も、町家が人びとの日々の暮らしの場になっているからだ。その意味では、私たちに窮屈感を与えない、ゆとりと大らかさを感じる街並みだ。