奈良井宿の街並みはどこから歩き始めても素晴らしいのですが、私はあえて下町をタウンウォッチングの出発点とすることにします。
もちろん、JR奈良井駅や北側の大駐車場から近いということもあります。でも最大の理由は、この宿駅の街並みの立体感や奥行きは、緩やかに坂を上っていくことでよりよく感じ取ることができると感じるからです。【⇒街筋の絵地図を見る】
そういう理由で、この宿場町の一番低い地点である下町から緩やかな坂を鎮神社に向かって歩いていくことにします。
奈良井駅を出て南に歩き出すと、右手に急な崖とも呼べるほどに急な斜面が迫ってきます。この斜面は、初夏は鮮やかな緑に覆われ、晩秋には紅葉に包まれていて、季節の移ろいを如実に感じる場所でもあるのです。まさに「木曾は山のなかにある」というわけです。
季節ごとの色彩の変化を楽しみながら歩いてみてはいかがですか。
▲花野屋の店先
街の家並みが始まる地点の右手(西側)には方形の石垣が2つ向かい合ってます。これが桝形で、正規の宿駅の入り口です。街道から二度直角に曲がらないと宿場に入ることができません。
これは、江戸幕府が西国から攻め上るかもしれない仮想敵に対する備えであると同時に、参覲の旅を往く大名が本陣に泊まった時に、武将として軍事的防衛体制を固めるための備えです。
そこから南に向かうと間もなく右手に水場があります。街歩きの前に、冷たい水を一杯いかがですか。一息入れながら、季節の息吹を感じてください。
そう、奈良井の街並みは、季節の移ろいを感じながら散策するところなのです。
季節ごとの趣の変化がはっきりしている信州でも、木曾の参集はひときわ季節の色合いが明白に移ろうところです。
そして、街の人びとは、街道沿いの(店や住宅前の)小さな空間にその季節に似つかわしい植物や花、素朴な飾り物を用意してくれるのです。
日本の伝統的な歳時記に沿って、季節ごとの町屋の山の行事や風情をみごとに演出しているのが、奈良井という街の特徴なのです。
▲柳屋漆器店の店先
ここでは、そういう季節の演出にことのほか巧みな2つの店舗、松屋茶房と越後屋の店先に注目してみました。
松屋茶房は店先の植栽や鉢物植物の色合い、そして美しい日傘がとりわけ目を引きます。
越後屋も、店先の植栽と鉢物が季節とともに移ろって何とも言えない落ち着いた雰囲気を醸しています。
そこで、ふと足を止める旅人も多いようです。
▲下町の屋根が並ぶ
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