奈良井宿で観光客が一番たくさん集まる場所は中町です。この街区は、通りの両側の町屋家屋の列を後退させて、道幅を拡幅したことから、開放感があって人びとが横並びに歩きやすいという事情があるのかもしれません。【⇒街筋の絵地図を見る】
もちろん宿場の中心部ということで、街道を上りながら見物する人たちと下りながら見物する人たちが行き交う場所にもなっているため、この通りに人が同時に存在する確率が高いということかもしれませんが。
中町には、間口が広い大店が多く集まっている――今に残されていると言うべきか――ような気もします。
食事を供給したり土産品をあつかったりする店も多く、その分、観光客が集中することになっているのかもしれません。
さらにまた、通り沿いが前庭となっていて、そこに樹木や山野草が植わっていて、独特の田園風味の開放感を感じるせいかもしれません。
要するに、それだけ活気があって、見どころも多い、そういう通りなのです。
▲「杉の森」と「つちや」の間の小路
街の大通りとしての中山道を歩いてタウンウォッチングをするのも楽しいのですが、この通りに連結する狭い小路に入ってみてはいかがですか。表通りでは気がつかなかった街の様相が見えてきます。
たとえば小路側から街道を見ると、別の視点や角度から通りや家並みの形に気がつきます。
私は中山道に特有の町屋の造りが側面から見てどうなっているか知りたくて、街道につながっているすべての小路を探検してみました。自分の足で歩いてみると、狭い間口と比べて、奥行きがすごく深い町屋の構造を実感することができました。
▲徳利屋の前、通り脇にあるカエデ
▲松坂屋の隣の庭園――晩秋の装い。
ところで、中町にはところどころ、通り沿いに庭園や里山風の景観が顔をのぞかせています。
たとえば、徳利屋の前のカエデ、そして松坂屋の隣の庭の樹木や草、栄元の前庭など。これらには季節ごとに彩の異なる景色が見られます。
私は、家並み景観レイアウトのなかに、松やカエデ、ススキが割り込んでいる情景を見ると、とても心が落ち着きます。日本の伝統的な家屋は、明るい緑の初夏の若葉や晩秋の茜色など、植物が息づく里山の風景ととても良く溶け合うのです。
周囲の自然と調和する家並みの形の快さを奈良井で味わってみましょう。
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