▲水路は地蔵広場の前を横切って集落に
平出の泉は、池の西端の水神様の祠の脇が水源で、毎秒45リットルの水量を湧出しているそうです。比叡ノ山は石灰岩質なので、湧き出る水はかなり強いアルカリ性です。カルシウム・イオンを含む泉の水は、陽光のうち淡い青緑色を反射しています。
そのため、池そのものには魚や貝はもとより、水草や藻も生きることはできません。つまり、池の水を汚す条件はまったくないため、水底まで完全に透き通って見えます。
それでも、集落内の水路の下流部にはカニが住んでいるのだとか。丈夫な甲羅を形成するためには、カルシウムを含んだ水が役立つからでしょうか。
▲水路は生活に身近な存在
▲水路は美しい景観の不可欠の要素
▲生け垣で囲まれた小径
カニといえば、比叡の山麓のカニは東麓の平出に泉が湧くように岩を掘ってくれたという伝説があることから、この地区では人びとは恩義を感じて、サワガニを捕って食べることはないのだそうです。
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泉の西端の水神様の祠近くから水が湧き出る
泉池の堤の水門から水路に流れ出た水
集落の家並みのあいだを流れる水路。
水路に設けられた堰で水位と水量を高める。
集落のなかを清冽な流れていく
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▲敷地内には何棟も土蔵が並ぶ
塩尻市宗賀平出地区には、ざっと見渡して十数軒の本棟造りの家屋があります。その大半が昭和期前半までに建てられた古民家で、その多くは補修や修築を施されているように見えます。美しさを保っているのです。
本棟造りとは、江戸時代末期から始まった富裕な農家や商家の住居ないし店舗の建築様式です。それ以前(江戸中期まで)の富農の住居は、駒ケ根市赤穂の旧竹村家住宅のような平屋の寄棟肩葺き家屋でした。
往時の本棟造り家屋は板葺切妻造りで、だいたいは二階立てで妻入となっています。大棟の両端には雀踊りないし雀脅しという棟飾りが設置されていて、雄大さや広壮さを強調しています。二階造りの場合、一階を雨雪などから守る庇として妻面に板破風が付設されています。
妻面には、広壮な建物の構造的強度を保つための梁や横桁が露出していて、それが強さと美しさを印象づけています。
本棟造り建築は建築費が高額になるため、幕末以来、富裕で有力な農民や商家の家屋でした。家柄に応じて藩庁による建築の許可が必要でした。ところが、長い歴史を持つ農村集落では、明治以降、裕福になった多くの住民がかつての有力家門を模倣して本棟造りの住宅を建てるようになりました。
おかげで、その分、美しい伝統的な建物が後代に残ることになりました。平出集落は、おそらく信州でも相当に裕福で文化水準が高い農村集落だといえます。
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どっしりと重厚感がある雀踊り
天を衝く雀踊りが印象的
腕が横に延びた雀踊り
長屋門の奥に本棟造りの住宅がある
石灰などの肥料の製造・販売を営んでいた建物か
立派な薬医門が横の前庭に向いている。幕藩体制下では、家の造りや門の構えについては家格に応じて各藩の許可が必要だった。明治以降にはそういう統制がなくなったので、この塩尻地方では、裕福な住民が薬医門や長屋門を――古い慣習に遠慮してか――敷地内に道路に面しない形で建造する風習ができたと推察される。 |