奈良井の街並み歩いてみて好ましいのは、ここでは、飲食業や工芸・土産品販売の生業のスタイルが、ごく控え目で、街の景観のなかに無理なく自然に溶け込んでいて、邪魔にならないことだ。
控え目でセンスの良い店構えやディスプレイが集まって、この街全体の美しさと品位を生み出している。
店の看板屋号の表示がどれも奥ゆかしい。店の間取りや戸口からはみ出るような商品展示はしていない。完全に落ち着いた街並みのなかに調和している。
すべての店に街づくり、景観保存のコンセプトが浸透していて、街の人びとが納得して業を営んでいるからだろう。この自己抑制は、訪問者にとっては、住民としての商人の気骨や自信を表しているように見えて、頼もしい。
◆控え目な粋 惹きつける魅力◆
この街のなかでは、突出して目立とうとするディスプレイは違和感と不調和でしかない。クオリティを求める者の目には、かえって暑苦しく、内容の乏しさを見かけで補うとか、質の不足を量で覆い隠すような姿勢にしか見えないだろう。
穏やかな歴史的景観のなかでは、むしろ自己抑制に富んだ品の良さ、控え目さこそ人の心を強く惹きつける。
控え目でありながら、あれこれの店はそれぞれに個性的だ。それも、今あるような奈良井宿の街並みのなかでこそ引き立つ個性なのである。
「突出した自己表現」の代わりに、店の前には街並みの景観に調和して美しさやセンスの良さを盛り立てるように、植栽や草花、飾り用具が考え抜かれて置かれている。
街並み景観の端正な美しさを形成・保存するというコンセプトが、生活スタイルや商売のスタイル全体をきっちり方向づけている。町のたたずまいに整合し、違和感なく溶け込んだ生業(なりわい)のありようが、まさに奈良井
宿の「売り物」なのだ。
町家からなる街並みは、ひとまとまりのイメージ(構想)で統一されている。
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