前山寺の山号は「獨股山」で、目の前の険しい岩山、独鈷山から取られているということです。
9世紀のはじめ、空海上人(弘法大師)が護摩修行のために開基したと伝えられています。
独鈷山は、天空に向かってそそり立つ岩塊からなる山で、真言密教の修験にはまことにふさわしい趣です。
開創の頃、この寺は、現在の寺域から南西に1キロメートルほど離れた「前山」というところにあったようです。独鈷山の山頂にずっと近い場所です。
その後しばらく衰微の時期を経て、鎌倉末期からふたたび塩田北条氏の庇護を受けて隆盛を回復したとか。
13世紀の末葉、北条氏が塩田城(中世型の砦)を構築したことから、城砦の鬼門に当たる現在地に移転して再建したと考えられます。
◆時代の痕跡を刻む本堂◆
さて本堂は、鎌倉期から室町期にかけての時代に特徴的な禅宗特有の建物です。宋代中国から伝来した禅宗様式(唐様)を和風様式に巧みに融合させた建築様式です。
屋根は「そり」と「むくり」を帯びた唐様和様折衷の茅葺きで、棟側正面にある入口には唐破風が冠せられています。
「むくり」を帯びた茅葺屋根の頂部を高く設定してあることから、離れたところからは城館のように堂々として見えます。境内は、山麓の傾斜を利用し、石垣で支えられた高台にあって、そこに配置された本堂は、まるで城砦の趣です。
寺域全体が、武士階級に好まれた禅宗寺院にいかにもふさわしい造りになっています。
◆山と庭園が溶け合う◆
質実剛健の禅宗寺院に似つかわしいものが、周囲の自然環境と一体化した山水庭園です。
山岳を模した築山は山腹の傾斜を利用し、そこから流れ落ちる水は大海を模した池に注ぎ込みます【写真下】。
水の流れは、山から海へという自然の循環を模倣した宇宙観を表しているとか。
本堂の隣の庫裏には、「おはぎお接待」で知られる茶房があって、そんな山水庭園を眺めながらくつろぐことができます。
お接待の後で庭園をめぐり歩くのもお勧めです。ただし、植物の保護や手入れのために歩行禁止区域があるので、ご注意を。
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