▲仁王門:ここから石畳の参道が始まる
木曾山脈(中央アルプス)の東麓にある宝積山光前寺は、不動明王を本尊とする天台宗の寺院です。860年(貞観2年)、本聖上人により開山されたそうです。しかし、創建後、何度も火災に見舞われ、その由緒や歴史に関する古い記録を失ってしまったようです。
本聖上人は比叡山で修行した後、この近くを流れる大田切川の支流、黒川中流の滝のなかから不動明王像を発見し、本尊としてこの寺を開いたのだとか。不動明王を見つけた滝は、光前寺から4キロメートル北北東にある不動滝と呼ばれている場所でしょうか。
古記録がないということですが、空木岳の尾根裾にあるこの辺りは、開山前には密教の修験場だったかもしれません。初期の寺院は今の場所よりも200メートル以上も山の奥にあったのだとか。
◆石塁に囲まれた参道を往く◆
中央アルプスの東の山麓丘陵に位置する寺の仁王門辺りでは、遠大な眺望が開けていて、遥か東方に南アルプスの秀麗な峰の連なりを眺めることができます。朝にはそれらの連峰のあいだから陽がのぼってきて、神々しい風景が現れます。陽が没する境内の背後の山岳と陽がのぼりくる秀峰を遠望するこの地は、古代の学僧たちが修行や信仰の拠点とするにまたとない地だったことでしょう。
さて、仁王門をくぐると石畳の参道が始まります。石垣で取り巻かれた高さ50〜70センチメートルほどの土塁が参道の両側に続き、三門の前まで導いています。土塁の手前側には若い松が植えられていて、その奥にはカエデを交えて杉の老巨木が並んでいます。一群の背の高い老杉は陽射しを遮っていかにも荘厳な気配の木陰をつくり出しています。
幹や枝のあいだから射し込む陽光の筋は、苔に覆われた土塁と石畳に絶妙な光の紋様を織りなしています。
土塁の石垣の隙間には、ところどころにヒカリゴケの群落が見られます。ヒカリゴケも光前寺の名物なのです。
◆枝垂桜の前庭と大講堂◆
仁王門の南側には池があってその周囲を枝垂桜のみごとな古木の列が取り巻いています。春にはさぞや美しい桜花の繚乱が見られることでしょう。
そんな前庭の奥には、じつに重厚で広壮な結構の大講堂が控えています。均整の取れた大きな屋根の前側には、これまた大きな向拝が庇を差し出しています。
▲庭園から大講堂を眺める
▲大講堂と参道のあいだの様子
石畳の参道に戻って、大講堂の裏手に回ってみると、一群のカエデとヤマザクラからなる樹林があって、晩秋には紅葉の名所となるようです。樹林は自然探勝園と呼ばれ、そのまま溶け込むように山林に続いています。寺の境内庭園と周囲の深い森林は自然探求の場として大事に保護されているようです。
カエデの樹林のなかには、これまた重厚な造りの鐘楼が建っています。
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