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長野県大町市
 
 
神と仏が寄り添う境内  

  9世紀半ばに創建されたこの神社に、鎌倉時代はじめ、この一帯の有力領主、仁科盛遠が熊野那智大社から若一王子を勧請して、社号を「若一王子権現」に定めたそうです。
  それから時を経て江戸時代の宝永期(1706年)、神仏習合の思想にもとづいて若一王子の本地仏である十一面観音を本尊とする観音堂が建立されたのだとか。


▲神社の主拝殿の横に茅葺寄棟造りの観音堂が並び立つ

  若一王子は熊野那智大社の第五殿に祀られている神ですが、神仏習合の思想にもとづく神で、天照大神にあたるとされているそうです。本地仏という思想は、平安末期から鎌倉初期にかけて理論化され普及した日本独特の浄土思想のなかで、衆生済度のため、さまざまな仏が神々の姿で現れるという考えです。
  権現というのも、基本的に同じ考えにもとづくもので、神々の姿に化身した諸仏(如来や菩薩など)ということになりそうです。つまり、日本古来から尊崇された神々は、仏界の菩薩や如来の化身だということになるわけです。無信心な私から見ると、古代インドのサンスクリットの神々が日本固有の信仰や宗教文化と結びついて、日本古来の神々と関連づけられ等置されたのだろうとうことになります。

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▲鎮守の杜の上に浮かび上がる蓮華岳。荘厳で神々しいとは、こういう景観をいうのだろう。

■古い日本の姿を感じる境内■

  時の為政者や権力者たちは、宗教の観念や市思想を自らの権威の正当化や拡張のために利用しようとしてきました。それはそれで批判的な歴史的検証が必要でしょうが、私は、錦繡にあいだに定着した信仰や宗教観はそれ自体で尊重すべきものだと考えます。
  日本古来の神仏習合の慣習や思想がそのまま具体的な形として現存しているこの神社の境内に立つと、神棚と仏壇をともに拝み、クリスマスを楽しむ日本の文化のファジーさは、それ自体、大切な生活態度、宗教観ではないかと思うのです。




▲主拝殿の奥の本殿:3つ並んでいる

  この神社は、明治時代の乱暴な政治=宗教運動による破壊を免れたのですが、そもそも仏教との結びつきのなかで生まれた若一権現を祀る社である限り、神社のアイデンティティを保つためには、それしかなかったのでしょう。この一帯の民衆の生活や信仰からすれば、神仏の分離や廃仏棄釈という排他的・一元論的な発想そのものが、この境内神域に入り込む余地がなかったのでしょう。
  伝統的なスタイルを守って激動の荒波を乗り切ったこの一帯の人びとの賢明さと努力に深い敬意をしたいと思います。

  とはいえ、社号は若一王子権現から若一地王子神社へと改称され、明治政府の神道思想による神社の序列に組み入れられてしまったようです。

  ですが、ここでは主祭神だけでなく、八百万の神々と観音菩薩が並存する独特の調和がもたらされています。
  拝殿の奥のヒノキやサワラの樹林のなかには、境内社の木製の社殿や石造りの小さな祠が数えきれないほど並び、あるいは点在しています。

  自然環境と社会のあらゆるものに神や仏が宿ると見る汎神論の世界が、この一帯の聖域には広がっています。


▲江戸時代に再建された信州で最も重厚な三重塔

◆樹木の生命力を感じる境内◆


▲古い切り株跡に育った杉

  この神社では神域にふさわしく、ヒノキやサワラ、杉などの樹木が長年、大切に守られ育てられてきたことは明らかです。樹高が20メートルを超す老大樹はもとより、樹齢30前後の若い木々も目立ちます。

  境内北側(拝殿の裏手)には、ヒノキやサワラの広い樹林があります。そして、背の高い針葉樹が境内全体を取り囲んでいます。遠くからでも鬱蒼たる森が見え、この神社の存在を知ることができます。
  境内のあちこちに樹齢300年は超えたであろうような大木の切り株跡が残されています。1000年以上にわたって人びとが境内の樹木を大切に守り育ててきたのです。
  上の写真は、直径1.8メートルほどの切り株跡に育った若い杉の根元を写したものです。樹木は代を継いで神域を守っていくのですねえ。


拝殿前で:新生児を祝うために参拝に来た家族

茅葺寄棟造りの観音堂

お堂のなかの様子:宮殿(須弥壇)が見える

裏手の樹林から観音堂を眺める

護国神社の社殿

八坂神社の社殿

主拝殿脇に境内社がたくさん並ぶ

杜のなかの小さな祠は数えきれない

大鳥居と三重塔が並ぶ

拝殿裏のヒノキやサワラ、杉の樹林

森閑とした樹林のなか

アルプスからの清流が杜のなかを流れる

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