別所温泉は上田盆地の西の端にあります。非常に歴史の古い温泉郷で、平安時代の半ば頃から温泉療養の人びとが滞在したといいます。
9世紀半ばには、中国(唐)に渡って研鑽を積んだ高位の学僧たちが、当時の最先端の医療知識(薬草学、温泉治療など)を携えて、塩田平・別所方面に訪れたと思われます。
やはりその頃、上田に国府が置かれ、信濃国分寺が創建されたことからも、この一帯は早くに平城京や平安京と結びついて、仏教研鑽や普及の拠点となったようです。
安楽寺も平安時代の創建という言い伝えがありますが、鎌倉時代中期よりも前の歴史については、確たる記録・資料が残されていません。
それにしても、鎌倉中期には、別所・塩田平にはいくつも大規模な(真言宗や禅宗の)寺院があって、多数の僧たちによる仏教や学問の研究がおこなわれ、農業や繊維業の開発が進められていました。
◆鎌倉中期の隆盛◆
曹洞宗の安楽寺は鎌倉中期には有力な禅寺で、鎌倉幕府(北条氏)による支援もあって、多くの学僧を育成していたといいます。信濃の学海の中心のひとつでした。
このあたりの寺院学僧は宋代の中国との行き来もあったようで、禅宗仏教の経典や知識などに加えて、唐様の寺院建築様式の技術や医学・薬学などの知識もこの地に蓄えられたようです。
ところが、北条政権滅亡後には急速に衰退したようです。
それでも、安楽寺には、八角三重塔をはじめとして国宝級、重要文化財級の鎌倉時代からの文化遺産が残されています。
◆安楽寺詣で◆
安楽寺は別所温泉の北西の端で、夫神山の山麓に位置しています。
安楽寺を訪ねる道はいくつもあります。
まず、別所温泉入口の駐車場から北西に歩き、常楽寺を経由して、景観の素晴らしい――温泉街を見下ろしながらの――山麓高台の小径をたどる道があります。
また、駐車場から温泉街の中心通りを進み、温泉センターで右折して北に上る道があります。すぐに栄福山安楽寺の黒門に行き着きます。門をくぐって池の脇を過ぎると参道を登ると山門・境内です。
蓮の葉が広がった参道脇の池(6月)
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