門外漢の印象ですが、上田盆地にある大法寺、信濃国分寺、前山寺の三重塔は造りがよく似ています。
この3つの塔は、大法寺の塔が最も古く、大坂天王寺(四天王寺)の宮大工が直接手がけたもので、その意匠(設計思想)が国分寺の塔に引き継がれたようです。
前山寺の三重塔は、この2つの塔の意匠を受け継いだ形ではないかと思われます。
塔の本体(身舎)は細身で屋根庇(裳階)の平面積を大きく取っていること。第一層の屋根庇を大きくして躍動感や立体感を強調する造りになっていること。
これらが共通点として認められます。地理的に3つが近いことで、上田・塩田に共通の塔意匠があるような気がします。
◆「未完の美」が完成させた意匠◆
3つの塔のなかで建立年代が一番新しいのですが、前山寺の塔は、いわば「意匠の原型」を表現しているように見えます。
とういうのは、ここの三重塔は未完成であるため、回廊や勾欄(欄干)などの装飾がないからです。
装飾が施されなかったことで、かえって塔の意匠の原型が直截に現れているのです。これはこれで、独特の美の典型をなしているのです。
そして、庇の四角に張り出した貫材は、塔の建築構造が支えている力学的動勢を表しています。それだけでなく、塔の内部から放出された光のようにも見え、仏舎利塔にふさわしい風格を与えています【写真下】。
▲組みっ放しの貫材が力強く動勢を表す
◆周囲の環境に溶け合う姿◆
境内の山水庭園が周囲の自然環境に溶け込んでいるとすれば、塔もまた樹木に取り巻かれて独特の美しい景観を構成しています。
ここでは、樹林の姿の季節ごとの変遷のなかに三重塔の光景を位置づけてみました。晩冬、初春、春爛漫の頃、初夏、晩秋と。
ところで、前山寺の三重塔の水煙も独特です。安楽寺の塔の水煙と比べると、火炎のデザインから方形の枠に囲まれた様式に抽象化されています【写真下】。
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