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長野県塩尻市
 
 
宿場の東端の押さえ


▲永福寺山門(仁王門) 1894年立川音四郎種清によって建立された

  塩尻宿の西端の鎮めが阿禮神社であるとすると、東端の押さえは永福寺ということになります。⇒塩尻宿の絵地図
  下ノ諏訪宿から塩尻峠を越えてきた旅人は、宿場の入り口手前にある永福寺の堂宇を見て一安心したことでしょう。旭観音堂と山門は堂々とした造りで、旅人は塩尻宿の繁栄ぶりを知ったはずです。
  徳川幕藩体制がかなり固まった段階で建設された塩尻宿には、そういう街道宿駅の構想コンセプトが明白に表れています。

■信濃源氏の系譜を引く寺■


▲冠木門の両脇にはたくさんの石碑と石仏が並ぶ

◆寺の歴史の変遷◆

  寺伝では、1521年に近くの長畝に臨済宗の長福寺として開基されたといいます。そこが、三州街道と千国街道とを連結した古い塩尻宿の北の入り口だったのではないでしょうか。
  ところがその後、中山道塩尻宿の成長にともなって1634年、宗旨を真言宗に変え、上町の南(長福寺跡)に移設されたようです。
  やがて塩尻宿が建設され宿場町として成長すると、さらに1704年に現在地に移設され寺名を永福寺にあらためたそうです。街道宿駅としての体裁を整えるためだったのでしょう。

  そういえば、五千石街道沿いの長畝には「駒形馬頭観音」の跡があります。ここが長福寺が開基された場所だったということです。宗旨が臨済宗だということは寺の創建は、戦国期の武士(領主や地頭)たちによる領地村落の統治に関連してのことだったのではないでしょうか。
  そして、三州街道と千国街道との連結地として旧塩尻宿(古町)の形成にともなって、街の南端に移転したと思われます。
  こうして塩尻宿の東西両端の寺社が、宿駅の建設にともなって政策的に移設され、宿場町の形が確立されたわけです。

◆木曾義仲の菩提を弔う◆

  さて、現在地への移設にさいして力を発揮したのは、木曾義仲の子孫、木曾義方上人だったとか。
  上人は木曾義仲の菩提を弔うために、本堂奥の壇上に駒形観音堂を建立しました。
  義仲は、挙兵して平家を京洛から駆逐したことで征夷大将軍の位をおくられ、朝日将軍と尊称されました。それで、この観音堂は朝日または旭観音堂と呼ばれるようになったとか。
  その観音堂はその後、焼失してしまい、1855年に二代目立川和四郎の手で再建されました。それが現存のお堂です。
  観音堂の前には馬の銅像が立っています。見るからに小ぶりなうえに足の短い身体形状で、木曾馬だとわかります。木曾義仲の愛馬「鬼葦毛」でしょう。


▲本堂の大棟の寺紋は「丸に笹竜胆」

  この寺の寺紋が「丸囲み笹竜胆」であることから、この寺が源氏の系譜にあることがわかります。これは、移転中興に貢献した義方僧正に因んだものなのでしょうか。それとも、創建以来、信濃源氏とかかわりあったということなのでしょうか。
  開基時の宗旨が臨済宗だったということなので、武士の宗派である禅宗なので、源氏の系譜にあっても不思議ではありませんが…。

◆夥しい石仏群◆

  ところで、観音堂の周囲には夥しい数の石仏が並んでいます。如来や菩薩そのほかの仏たちが、観音堂を取り巻くように配置されているのです。
  数えきれないほどの仏群が居並ぶ構図。それを見て私は、この寺院が真言宗であるということから、両界曼荼羅図のことを想起しました。


  両界曼陀羅とは多数の仏たち配置によって、胎蔵界と金剛界という2つの次元の世界観・宇宙観を直観的に図示するものだそうです。曼陀羅とは「本質的な連関」「宇宙の真の文脈」を意味するとか。
  境内にたくさんの石仏群が並んでいるのは、そういう曼陀羅の思想を具現化して、私たち凡人に見えやすくしようとしたのではないでしょうか。


旧中山道沿いにある永福寺の冠木門

門脇に並ぶ石碑・石仏群

仁王が左右に並ぶ楼門が山門となっている

阿形と吽形

本堂側から見た仁王門

鐘楼の横には古い梵鐘

重厚な本堂

屋根に雀踊りを載せた本棟造りの庫裏

山門脇の池 竜の口から水が流れ出る

一段高い壇上に馬頭観音堂がある

再建を立川和四郎が手がけた観音堂

観音堂の前には木曾馬の銅像


石仏群には番号がついているので、回国巡礼を簡略化したようにも思えるが、私には曼陀羅のように見える

 
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