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長野県千曲市八幡
  千曲市の姨捨おばすては棚田とスイッチバックの駅で有名です。
  姨捨は善光寺平の南西端に位置しています。善光寺平は長野盆地とも呼ばれ、ともに暴れ川である千曲川と犀川とが周囲の山を侵食してつくり出した盆地です。姨捨の里は筑摩高原の東端にあって、小諸から上田を経て北西に流れ下ってきた千曲川が大きく北東に流路を転じる場所を見おろす山腹斜面にあります。

  写真は、棚田が連なる斜面と背後にそびえる姨捨山(冠着山)【撮影は2019年9月末】
おばすて棚田の四季

  姨捨を含む千曲市八幡は日本の黎明期からの歴史をもつ美しいところです。古墳時代にも多数の集落があって、奈良時代には信濃から都にいたる官道が通っていた物流の要衝です。松本から筑摩郡の山間を抜ける官道は、江戸時代に北国街道西脇往還(善光寺街道)として整備され、姨捨棚田の里の脇を通っていました。
  おばすて棚田の里は、歴史の里でもあるのです。江戸時代以降、田植えの頃に棚田の水面に映る名月や仲秋の名月を眺めて俳句や和歌を詠もうとする多くの人びとが、この地を訪れるようになりました。長楽寺の周囲には、今でも数えきれないほどの歌碑や句碑が残されています。


▲仲秋収穫期の棚田から善光寺平を見おろす。画面中央に鈍く輝く水面が千曲川。


▲棚田から谷越しに長楽寺を眺める

  姨捨の棚田地帯は日ごとに風景を変えていきます。小さな変化が累積して四季の様相をもたらします。棚田が連なる里山を歩きながら、背後の山岳を眺めたりながら、季節の移ろいを感じてみませんか。
  姨捨の棚田地帯は千曲川を見おろす北東向き斜面で、眼下に善光寺平の風景を眺望することができます。


▲耕した棚田に高原から引いた水が張られる。その向こうに善光寺平の風景。

■春から初夏に向かって■


▲谷からのぼる農道遊歩道

  信濃の山里の春は、田植えの準備から始まります。秋から半年近く休眠していた田んぼを起耕し、土壌に空気を混ぜ込んだのちに、高原から引いてきた水を流し込みます。
  高齢化や農業人口の減少で、信州各地の棚田地帯は存続の危機に見舞われ、環境や景観の保全が曲がり角に立っています。

  これまでに山間の棚田のかなりの部分が放棄され、数百年前の状態に戻っていきました。
  姨捨の棚田は、千曲市と地元住民が協力して立ち上げた「棚田オーナー制度」の効果で、大部分が保全されています。


▲棚田が並ぶ尾根越しに見える冠着山

  姨捨の地形を見るとき、何よりも目立つのは冠着山(姨捨山:標高1252メートル)の釣鐘のように突出した姿です。巨大な溶岩ドームが屹立しているのです。
  500万年以上前に粘性の大きな溶岩を噴出する火山活動で形成された山塊です。その北東側の姨捨は、数十万年前までは比較的平坦な台地だったそうです。
  ところが、1000年に一度の大地震が数十万年間も続いたため、姨捨がある西側断層が隆起し続け、千曲川が流れる東側断層が沈降し続けた結果、現在のように、棚田地帯で千曲川と150メートル前後、高原の頂部で600メートルもの標高差が生まれたのだとか。
  長楽寺境内や棚田のなかに巨大な溶岩の塊が残されていますが、これは棚田と陣がある尾根が隆起する以前に、冠着山の溶岩をたっぷり浴びた証拠です。
  しかし、隆起以前には千曲川流域にあって粒子の細かい土壌や粘土が堆積していたため、水田稲作ができるような肥沃な土地の状態になったということのようです。姨捨の棚田は、まさに天の賜物なのです。


▲長楽寺観音堂横の姨石(凝灰礫岩)


農薬を使わない「生き物いっぱい田んぼ」

棚田はあたかも池が重なる階段のようだ

波が静まった田の面は鏡のように山を映す

尾根の背に重なり並ぶ棚田

右上が姨捨山(冠着山:標高1252m))

耕作と注水は山斜面の下から上に進む

麻績宿の脇本陣「瀬戸屋」の現在の姿

街道の先に姨捨山(冠着山)が見える

初夏、田植えの頃。ほとんど田んぼに水が張られている。

田植えが終わった水田と草地から復元された水田

緩やかな尾根のあいだに挟まれた谷間。背景は千曲市の善光寺平。

都会の子どもたちがやって来るので、信州の月遅れの鯉幟も風を受けて元気に舞泳いでいる

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