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長野県松本市内田山
 
 
自然との苦闘と調和  

  山岳高原に囲まれた信州では、人びとの生活は自然の力との苦闘の連続でした。そうはいっても、都市部のように交通路やビルなど人工の構築物で大地を覆いつくして自然を圧倒するというものではなく、圧倒的な自然力を前にして、安全な生活の場を求めて自然との折り合い・調和を求める努力なのですが。
  自然の力の動きや大きさを測る知恵はまさに科学です。自然との調和をはかって築いた構築物こそ、人間の文化の誇るべき象徴ではないでしょうか。そこには、自然への畏敬が込められています。
  鉢伏山の西側山腹斜面にある牛伏川上流部の石組み河床、張石水路、フランス式階段流路を周囲の自然環境のなかに置いて眺めてみましょう。

▲牛伏川上流のフランス式階段流路 美しい階段状の滝に見える

■鉢伏山の山腹の源流部■

◆石張りの山腹斜面と渓谷◆

  松本城から南西に10キロメートルの距離のところに鉢伏山の山頂があります。標高は1929メートル。その北にある美ケ原高原とは、薄川が刻んだ深い渓谷を隔てて並んでいます。
  南北に連なる鉢伏山連峰の長い稜線の西側に湧き出す水が牛伏川をつくり出します。その渓谷の豊かな水を集めて、牛伏川は松本市街に流れ込んで田川と合流し、さらに松本城の西側で奈良井川に合流します。
  牛伏川の長さはせいぜい9キロメートルほど。ところが、この一帯の気候と地形・地質は、突然の豪雨が起きると大量の土砂を押し流して、下流部の集落や農地に深甚な破壊と被害をもたらしてきました。山腹が脆い岩石でできているうえに、渓谷沿いに牛伏寺断層帯が走っているのです。

  牛伏川の源流部では、標高1600メートルを超える地点から斜面と流路一帯に石張りを施しているのです。

◆斜面全体に石垣を施す◆

  牛伏川源流―上流部では、大量の降水が斜面の土砂を削って押し流すことを防ぐために、山腹斜面の全体に石垣が施されています。
  ただ登るだけでも大変な急斜面に石垣を積み、そのうえに土壌を盛って樹木を植えて、山腹の生態系を組み換えたのです。
  上流部の谷間の斜面や山腹には、今では土砂が堆積して土壌を形成し、植物が繁茂していますが、土壌の下には石垣が組まれているのです。
  この辺りの斜面全体が石畳になっているというか、石張りの斜面になっているというか……。こんな急峻な斜面全体に石を張る作業の大変さ困難さに思いがいたります。

  石垣には隙間があるので、一定量の水が地中に浸み込むようになっています。石垣の上を流れ下る水は窪みに集まって小さな流れをつくり、さらに集まってせせらぎや小さな滝のような流水となります。

◆流路・河床の構造の変化◆


▲階段状の石組みは流水を貯めることなく、張石の上を流れ落ちる滝にして、位置エネルギーを解放する。

  ところが源流部斜面が終わりに近づくと、水路は合流し幅と深さを一気に増すことになります。谷斜面と流路の構造が変化するのです。窪みに集まった水流ではなく、渓流となります。
  それが「杉の沢五段堰堤」あたりからです。
  そして「松建小屋」近くでは、山腹斜面あるいは谷斜面とは異なる深い水路と護岸の石垣からなる谷川となります。

  まもなく杉の沢は泥沢の張石水路と合流します。ここで護岸壁の幅は一気に広がり、流水量も増大します。


▲渓流を集めた後の中程度の斜度の水路は、大量の水を勢いよく流すように幅を広く護岸を高く――大きな流速と深い水位に耐えられるように――してある。

  内務省四号堰堤から下ではふたたび平坦な地形になります。そこでは、水流はごく普通の山中の穏やかな「せせらぎ」にようになります。
  しかし、少し間をおいて大きな高低差の地形に出会い、石垣堰堤で支えられた「滝」になります。

  平坦地が続くと窪地を流れるせせらぎ流路となり、平坦地と平坦地との間の落差では石組み堰堤による人工的な滝となるのです。

◆流路の写真は上流から下流へという順序です◆

蚕糸公園近くから鉢伏山方面を望む。この山は、市街から眺めると、なだらかに起伏する形状に見える。


山腹斜面全体に石積み擁壁を施してある



斜面全体が石垣に覆われている(日影沢)

石組み斜面の窪みに沿って流路ができる

人工の石組みの滝が連なる杉の沢五段堰堤

滝のような水流が集まって流れ下る

流路の幅と深さが増した「松建小屋」近辺

「松建小屋」下のY字形の合流部 渓谷も合流する

その下の平坦地形では普通のせせらぎ流路となる

平坦地の流路は河床に石張りがしてあるとは見えない

平坦地と平坦地の間の落差を支える堰堤

松本めぐり歩き

フランス式階段流路の工法について

  • 牛伏川源流部の斜面工法から。
  • 階段流路の施工法までを説明。

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