尾根台地の縁の細道なら100メートルと行かないうちに観音堂に行き着きます。何やらゆかしく懐かしい旅情が湧いてきます。
細道を歩きながら右手(西方)に目を向けると、樹間から姫川河岸の丘に広がる水田地帯を見おろすことになります。彼方には、八方尾根スキー場が眺望できます。
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▲森林浴しながら観音堂に向かう
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▲目の前の段丘の上に観音堂がある
蕨平観音堂の創建にかんする史料はないようです。けれども江戸時代中期から大正時代まで、観音堂の歴代住職は尼僧が勤め、村人に読み書き算盤の手習いを教えたのだとか。まさに寺子屋と呼ぶべき学び舎でした。ということは、この村の識字率や文化程度はかなり高かったということになります。
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▲観音堂の内部の様子: たくさんの仏像が並んでいる
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◆石仏群に詣でる◆
では石仏群をじっくり眺めてみましょう。
石仏は、4本の大きな杉の木を取り囲む南北に細長い変則的な長方形をなすように並べられています。この長方形の長辺は、観音堂――棟入で南面向きの造りの――に対してほぼ直角をなすように東向きに配置されています。
長方形の4辺のうち、3辺は石仏の列で縁取られていますが、南面の短辺がない形状です。北面には石仏が5体が並ぶ2メートルほどの短辺をなしているのです。東向きの長辺には30体ほどの石仏・石塔が横一列に鎮座しています。その裏側には、2列の部分も含めて30体以上が揃えられています。
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▲左端の石仏は「馬頭観音」という文字が彫られている
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▲前列の奥(裏側)で北面する石仏群もある
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▲大きな杉木立の下の日陰に安置された石仏群
小谷村千国郷から白馬村村の南まで、いたるところに石仏群があります。多くは塩の道に沿った場所ですが、姫川の東岸の山あいの村落にもいくつもあります。
千国郷の古老からうかがった話では、昭和50年頃まで、村々の住民各個ごとに石仏を奉納するのが昔から長い間の習わしになっていたそうです。財ある者は、たとえば高遠石工――南進の高遠から来た熟達した石工たち――に依頼して精巧な彫りの石仏をつくり、財なき者たちは自ら彫った場合もあるのだとか。
石仏を奉納するのは、家の当主が代替わりしたときとか、出産や死没、婚礼、庚申講の年回り、自然災害を受けたときなどとか、時折々に応じて、慣習的に定まったさまざまな場所に奉納安置したようです。
石仏群の奥には小さな地蔵堂が置かれています。お堂のなかには石造りの地蔵様が鎮座していて、赤い頭巾と肩垂れを着せられています。その地蔵堂の前には、歴代尼僧の墓所があって、六地蔵にならったのか6基の円筒型の墓碑が並んでいます。
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▲地蔵堂内に安置された死蔵様
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