今回の遊歩では、まず最初に大出集落の家並みを楽しみながら、おススメ周遊コースを北に向かいます。次に大きで公園をひとめぐりし、公園の南にある北野神社を探訪します。そして、かっぱ亭で昼食を兼ねてゆたりとした時間を過ごします。4つのトピックのそれぞれ1ページをあてることにします。
▲吊り橋茶屋脇の小さな茅葺き庵
▲吊り橋を渡って振り返る
◆河畔の集落◆
5月末に訪れたときには、吊り橋の上から見える姫川の流れは、雪解け水を集めて水量が多く、激しく波立っていました。吊り橋そのものは欄干と橋床が木製で、それを鋼鉄ステンレスのワイヤーが吊り上げ支えている構造です。
歩行用の橋としては、きわめて頑丈な造りで安定感抜群、橋が苦手な人でも安心して渡ることができます。吊り橋は、姫川が刻み込んだ川面との高低差7メートルほどの深い渓谷の両岸をつないでいます。
▲晩春から初夏の陽射しの下の古民家
▲9月はじめ、安芸の草花に囲まれる古民家
吊り橋からは、河岸の崖の上にたつ古民家とこれに続く河畔の家並みが見えます。なかでも茅葺屋根が金属板を被せることなくそのまま保存してある古民家が素晴らしく印象的です。橋からまっすぐ伸びる小径の正面には、茅葺きに金属板を被せた屋根の古民家があって、それが橋の上からも視野に飛び込んできます。古民家カフェかっぱ亭で、前庭のテーブル席もあって、前庭の端には小さな水車が回っています。
かっぱ亭の斜め前にある茅葺屋根そのままの古民家は観光施設ではなく個人宅ですので、敷地には入らないように気をつけましょう。この古民家は、茅葺屋根の南側が切り開かれて、二階により多くの陽光や風を取り込めるような造りになっています。これは養蚕のためです。このことから、その建築または修築年代は大正時代から昭和初期頃までと特定できます。
さておススメの遊歩コースは、かっぱ亭の前を東に曲がって村道伝いに歩き、この集落の雰囲気を味わったところで、道を北に取ります。標高差にして4メートル近くの段丘崖の坂をのぼることになります。丘の上、集落の裏手(北側)には広大な水田畑作地帯が広がっています。
ここで、田んぼの畦道を歩いて、白馬連峰の雄大なパノラマを楽しみましょう。パノラマの南の橋は鹿島槍ケ岳の北稜から五竜岳、そして北の端は白馬乗鞍や栂池高原ということになります。
9月の終わりごろにここに立つと、黄金色の稲穂の彼方に残雪がなくなった白馬連峰が見えるでしょう。
▲集落北側の段丘崖上からの眺め
◆水田地帯北の集落◆
▲大出地区北にある稲田のなかの集落
▲大正時代に開かれた集落だろうか
大出の北端で、姫川は北東に流れ下っていきますが、そこに西から来る松川が北向きに湾曲しながら合流します。松川は姫川の支流ですが、流水量ははるかに大きく川幅も大きいのです。松川の南岸には広大な杉の森が広がっていて、水田地帯や集落と川とを隔てています。季節風と水害を避けるための防災林となっています。
川の湾曲部では膨らんだ側に流水の力ははるかに大きくなって、浸食作用や増水時の破壊力が集中します。そこで、水田地帯の北側の杉林は、松川の氾濫時の被害を抑えるために植林されたものでしょう。
そんな、北側に森を背負った水田地帯のなかに大出北部の小さな集落があります。茅葺古民家も3棟ほどありますが、山小屋別荘風の建物も目立っていて、山間のリゾート地にも見える農村です。
私は古民家や古い家並み、道筋を求めて歩くことにします。
▲豊かな集落で、庭も端正に整えてある
この集落の東側には、姫川の谷を隔てて高戸山の尾根が迫っています。ここ大出で姫川は北東方向に流れていき、やがて西から流れ下る松川と激突するように合流します。水量からいえば、松川がむしろ本流で姫川が支流というべきでしょう。
大出の肥沃で平坦な大地はこの2つの川がぶつかり合いながら浸食と堆積を繰り返して形成したものです。この複合扇状地に堆積した土砂の大半は、松川がもたらしたものだといえます。
明治時代までは広大な森林が覆っていて、姫川の周囲は湿原または湿地帯をなしていたようです。明治以降に水田開拓と農村建設が本格的におこなわれたのでしょう。
▲塩島の南を流れる松川:500メートル下流で姫川と合流
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