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長野県大町市平借馬
 
 
二股分岐から大黒天まで


▲小径の脇、水田の畔に立つ馬頭観音。旧街道の面影を残す数少ない痕跡だ。


情景写真の石仏から30メートルほど東の畔に立つ馬頭観音▲

◆田園の集落を往く◆

  海岳院や蚕玉神社の脇から南に150メートルほど進むと、小径は2つに分岐します。おそらく南側の小径が街道の遺構に造成された道路だと思われます。
  近隣に暮らす人たちによると、その小径が「塩の道」だろうと見ているようです。この道脇には2つ馬頭観音が立っていて、それが祈りの道の痕跡として残っているという事情からです。
  街道沿いには石仏が数多くあったはずですが、今では道路の整備や耕地整理などで元来の場所から移され、たとえば海岳院の境内などに集められています。石仏の本来のロケイションを知るうえでは、道端に立つ馬頭観音は希少価値があります。そしてまた、人びとの信仰の表現としての石仏は、意外なところにあって、地元の人に教えてもらわないと気がつかずに通り過ぎてしまうこともあります。

■借馬の集落と田園の散策■

◆馬頭観音から大黒天まで◆

  分岐した道に挟まれる形で農家の敷地がありますが、その北側は屋敷林のように樹木が並んでいます。その一番北隅の2坪ほどは、堰の分水のために集落の共有地となっているのかもしれません。
  というのは、樹木の根元に地上部分が30センチメートルほどの小さな馬頭観音があり、さらにそこから南に3~4メートルほどの位置に道祖神が2体置かれているからです。


木々の根元に小さな馬頭観音がある


馬頭観音から3~4メートル南側に立つ道祖神2体

  今回の散策は、この馬頭観音と道祖神から国道148号との合流点にある大黒天までのコースです。そのコースは、この分岐点で南北2つの道に分かれ、中間点でこれまた双体道祖神の前で出会うことになります(下掲のグーグルマっプ参照)。
  千国街道沿いにはあれこれの観音菩薩や大日如来、地蔵菩薩などの石仏や道祖神がいたるところにあります。借馬の地ではこれに加えて大黒天が目立ちます。大町宿(大町市街)に近い集落では、要所に大黒天が置かれているようです。これは旧美麻村にも見られる傾向です。
  さて、散策の順路ですが、まずは千国街道跡と見られる小径を歩き、ふたたび分岐点に戻って次には北側の道をたどることにします。どちらの道も水田や畑作地、草地に取り巻かれた田園のなかの家並みを縫うような小径です。

  南側の道は幅が狭く2メートル弱で、古さが感じられ、往時の街道を想像しやすい風情だと思います。
  分岐してから180メートルほど、道の南側の水田の畦(東西両端)に1体ずつ馬頭観音が立っています。ひとつは観音像の浮彫りで、もう一方は文字で「馬頭観世音」と刻まれています。
  この辺りには路傍や野に立つ馬頭観音が目立ちます。馬頭観音は、農耕や街道の輸送に用いた馬など畜獣の霊を祀るものだといます。やはり街道筋ということで、農耕にも利用する馬を駄賃をもらって街道で荷駄の運搬に利用したという歴史を物語るものです。


路地からは北アルプスの秀峰が眺められる

  馬を飼っている農民たちが、とくに農閑期に馬を荷駄の運搬に利用して稼いでいたのでしょう。この辺りの地籍名は「借馬」ですが、賃料を受け取って荷駄の運搬に馬を利用する営みを往時「借馬しゃくば」と呼んだことと関係があるような気がします。

  馬頭観世音から160メートルほど南東に進むと、北側の道との合流点に到達します。そこには2つの道のあいだの三角地を小さな針葉樹並木で囲んだ草地があって、北の隅に双体道祖神が祀られています。


円形の石に刻まれた双体道祖神

  それでは、先ほどの分岐点まで戻って北側の道をこの双体道祖神まで散策することにしましょう。
  この道は分岐点から60メートルほど堰(用水路)に沿っていて、その畔には木立が続いています。木立が途切れると、道は堰とは離れていきます。そして、120メートルほど進むとふたたび堰の傍らに沿って進みます。
  堰の流路のほとんどは昔からの自然の姿をとどめているようなので、堰と離れて往く道の部分はおそらく昭和になってから造ったものではないでしょうか。


街道の分岐点に流れ来る堰(用水路)

針葉樹の屋敷杜がある懐かしい景観

  堰と道が離れていく場所の北側に健菜樂食Zenという食事処があります。千葉県からお子さんに適した環境を求めて移住してきたご夫婦が経営していて、周囲の田畑で無農薬有機栽培で穀物や野菜を栽培しているそうです。
  健康と自然を志向する今風のレストランですが、北アルプス山麓に位置する北安曇に似つかわしい風景の一部になっています。少子高齢化と過疎化が進むこの集落の将来を担う動きとして注目したいものです。

  さて、小径はふたたび堰の傍らを往くことになりました。対岸には花桃の並木が続いていて、春は鮮やかな桃の花の彼方に蓮華岳や鳴沢岳を望むことができます。家並みは途切れて周囲に田園風景が広がっています。用水路に沿って歩いていくと、南側の道との合流地の双体道祖神がある草地に到達しました。


何やら由緒がありそうな樹林と草地

堰に沿って南に向かう草道は街道跡かもしれない

  双体道祖神から国道との合流点までは、街道遺構はほぼまっすぐに南東に進んでいきます。圃場を整備し用水路を直線的につくるために街道遺構も起伏や曲折をなくして車両の交通の便をはかったように思われます。
  堰はこの部分だけが直線的な流路になっていますが、国道の120メートルほど手前で2つの流路に分岐します。分岐した水路は昔からのままにした可能性が高いのではないでしょうか。すると、往時の千国街道または脇往還は、2つに分岐した流路のいずれかに沿った道筋だったのかもしれません。
  それに、この辺りは大町宿の街並みにも近いので、脇道も何本かあっただろうと思われます。
  分岐して南に流れる用水路沿いには、草地と木立が残されています。これは昭和期までの景観を残す風致樹木なのか、あるいは往還沿いにあった社跡などを保存するためなのか・・・何やらゆかしさを感じられます。


国道148号との合流部に立つ大黒天像


ここで道は2つに分岐する。樹木の根元を堰が流れている。▲

金山神社の南から流れきた水路: 堰の底は自然のままに保たれている

この小径が塩の道(街道跡)だという▲

土蔵があって、懐旧を感じるの道端の風情▲

この道は道場が狭くて、往時の面影を残しているようだ▲

この先の田圃の畔に馬頭観音がある(このペイジの差上段の写真)▲

水田地帯を往く小径: 左手の家の先に双体道祖神がある▲

北側の道との合流地に立つ双体道祖神▲


北側の道を歩む: 道脇の堰(用水の)右岸に並ぶ樹木▲

道の傍らには叢林があって、野を往く往時の街道を想像できる▲

健康楽食Zen。千葉県から移住してきた家族が営む自然食レストラン▲



道はふたたび堰に沿って往く: 対岸の並木は花桃▲

家並みのあいだの田畑に出ると雄大な山岳風景を遠望できる▲

南北2つの小径の合流点: 双体道祖神を祀る草地がある▲

街道遺構は起伏や曲折がなくなってまっすぐに国道に向かう▲

この先で国道148号と合流する▲

千国街道と国道の合流点には大黒天(画面中央)が置かれている▲

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