▲晩秋の朝陽を浴びる錦繍の布引渓谷: 中央の断崖の峰の裏側に釈尊寺と観音、太子堂がある
▲観音堂宮殿から眼下に山門(仁王門)、壇上に釈尊寺本堂・庫裏。右は岩をくり抜いた隧道参道
小諸市の西端、大久保地籍の断崖絶壁にはりつくように堂宇が並ぶ寺院、布引山曝厳院釈尊寺があります。「布引観音」という呼び名で信州の人びとに親しまれています。
この断崖は御牧原台地の北端を縁取りながら、10キロメートル以上の長さにわたって連続しているのです。断崖は北方の浅間連峰と向き合っていますが、深い渓谷は千曲川が何万年もかけて、浅間連峰山麓と御牧原台地を刻み込んで形成したものです。
▲断ち割られたような岩壁に囲まれた谷間を往く参道
佐久方面から小諸市に流れ下ってきた千曲川は、自ら削り出した深い谷間を蛇行しながら流れをしだいに西に転じていきます。布引渓谷はこの大きな曲がり角を過ぎたところに位置しています。
流れが直進に近くなった千曲川は、速度と破壊力を高めたその激流によって衝突した御牧台地の北の端を打ち割って断崖をつくり出しました。不思議なのは、千曲川の流路と渓谷に対してほぼ直角に南向きの裂け目のような深い谷ができたことです。
そして、千曲川に面する断崖の裏側(南側)に落ち込んだ瓢箪形の大きな穴ができたのです。釈尊寺への参道は、南向きの裂け目谷をのぼり、岩稜の裂け目から回り込んで断崖の南側の穴に向かいます。参詣者たちは、この穴のような深い谷をつづら折りに登って、断崖の頂部近くまでのぼっていくことになります。
岩壁に囲まれた谷間には強い陽射しがあまり入らないので薄暗く、その分、落葉広葉樹の紅葉・黄葉は遅れます。高原地帯のこの辺りでは10月半ばに紅葉・黄葉の盛りとなりますが、布引観音の参道の谷間では、木の葉はまだ緑のままです。