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長野県北安曇郡白馬村神城
曹洞宗示現山長谷寺

  塩の道飯森宿の西の外れ、山麓に重厚な堂宇を屹立させているのが示現山長谷寺です。全集の寺院で、寺の開基は室町前期の1391年だとか。創建時からこの地にあったのかどうかは不明です。
  その後、一時衰微しましたが、16世紀前葉に仁科家の分家、飯森家が現在の境内の裏山に城砦を築き、山麓に家臣団や農民の集落を建設したことで、寺の命運は変わることになりました。1526年(大永6年)に領主飯森盛春の正室である光姫の庇護により再興され寺運も隆盛しました。


▲飯森集落の南端からの長谷寺と墓苑の眺望: 左手の山中に飯森城跡がある


▲門柱前から参道と楼門を眺める: 山門前の両側には石仏群が並んでいる

  あるいは、別の地から現在地に移設し、境内堂宇を再建したのかもしれません。というのも、光姫の故郷の大和から十一面観音を移して本尊としたということですので、復興というよりも再建立というべきかもしれません。
  江戸時代に入ると松本藩が主導して、長谷寺のある飯森に千国街道を開削し、飯田村との合宿――交互に宿駅役を務める街――として飯森集落を建設したことから、多くの旅人などからこの地で休憩停泊し長谷寺を参拝することになったのです。
  庶民が旅する「祈りの道」ともなった千国街道に有力な寺院があることは、往時の旅人に大きな心のよりどころを提供したことでしょう。


▲街道から境内と堂宇群を眺める: 背後は飯森山で、山頂左奥に城跡がある

■質実剛健の禅宗寺院■


▲樹齢500年を超える門前老杉の巨木

▲江戸後期(文政年間)建立の楼門

▲山門前に集められて整列した石仏たち

  私は、白馬村を南下する旧道沿いのところどころに立てられた千国街道に関する説明板(濃茶色の地に白字で記されている)をいわば道標にして、塩の道をたどってきました。飯森宿の手前で小径は2つに分岐します。ひとつは集落中央毘に続く道。もうひとつは、西側の高さ100メートルほどの山の裾に向かう道。
  「進路に迷ったら山沿いを行け」という街道歩きの直感にしたがって、わたしは飯森城跡がある低い山の下に進みました――ここではこの山を飯森山と呼ぶことにします。十王堂の湯の先で小径を南に曲がると、樹高が高い杉林が見えます。長谷寺の樹林です。
  私は、飯森城と城下街の建設にともなって長谷寺が創建の地から現在地に移設されたのではないかと考えています。


▲山門の下から参道を振り返る

▲裏山から引かれた水路(示現閣前)

▲庫裏の結構も重厚で威風を払う

  飯森城跡から見て長谷寺は鬼門(北東)にあたります。とすると、築城時に城砦と城下街の鎮護(鬼門除け)としてこの地に寺院を移して再建するのが理の当然と思われるからです。しかも、広い境内と重厚な結構の寺院は、迎撃の兵を伏せるのに最適ですから。
  これも勝手な空想ですが、長谷寺の創建の地は、さらに山奥か、逆に飯森の街の中央部に近い場所にあったのではないかと見ています。そうでなければ、飯森城は鎌倉末から室町初期にすでにここにあって、長谷寺はそのときから鬼門除けとして現在地にあったということになるでしょう。
  飯森の街中には十王堂があって、その50メートルほど西に名もない小さなお堂があります。ともに来歴は不明です。古代からここには千国街道のもととなった古道が通っていたということなので、古くは2つの小堂が大きな寺院の境内にあったとも考えられるからです。


▲野手に満ちた山水庭園と堂宇群

▲示現閣の扉
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  ひとたび衰微した後に再興されたとはいえ、室町時代に創建の禅寺としての重厚さは今でも充分に感じられます。なにしろ、豪雪地帯ゆえに屋根の勾配が急な本堂、その大きさ、庫裏の壮大さと厳然とした結構、示現閣(禅修行に来訪した僧たちを宿泊所か)の威容の存在感は並々ならぬ印象。
  豪雪地帯の山裾にある寺院の境内では、山から引かれた水利が堂宇を取り巻いて流れています。裏手の杉林のなかでは、水路は広がって池を形づくっています。


▲庫裏の屋根も急勾配だ


長谷寺の前の道は石畳になっている
木の間越しに寺の堂宇群が見える

1820年の建築だが、重厚な禅宗様式の楼門だ

杉林に囲まれた庭園: 山水風に石が置かれている

1992年に再建された鐘楼

示現閣も同年に建立された

1682年建立の本堂; 茅葺屋根に金属板を被せてある

1799年に建立された庫裏

境内南の墓苑から見た示現閣

墓苑化の本堂の眺め

南西の山裾から寺を眺める

裏手の杉樹林: 山からの水路が池をなしている

木の間から本堂と庫裏を見上げる

杉林のなかの小さな祠(社殿)

木漏れ日が樹影を際立たせる

北側からの庫裏と本堂の眺め

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