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長野県北安曇郡白馬村神城
花と紅葉の名所


▲広大な境内のなか樹林の奥に本堂などの堂宇が見える。背後には天狗岳から延びる尾根が迫る。

  沢渡地区は南西に膨らんだ形をしていますが、その膨らみの西端にある祥雲山貞麟寺は禅宗(曹洞宗)の寺院です。東を向いた本堂の背後には、遠見連山の天狗岳から延びる尾根が迫っています。私はこの寺に盛夏の7月末と晩秋10月末に訪れました。


▲貞麟寺の本堂: 重厚な造りで荒廃を支える柱も太い

  山裾の広大な庭園には、春から秋まで鮮烈に季節感を示す樹木や草が植えられ、端正に整えられています。春は枝垂れ桜の艶やかな花、初夏にはアジサイ、盛夏には緑したたる景観に包まれ、晩秋には錦繡に取り巻かれます。そういう時季ごとに鮮やかな色彩に囲まれながら、境内には静謐さ満ちています。
  移ろう色彩を静けさがひときわ印象づける、あるいは時を追って変化する色鮮やかさが静謐をことのほか際立たせる、この対照の妙こそ、日本の仏教あるいは禅の精神を表現する構図ではないかと考えています。
  言い伝えでは、もともとこの寺院はこの境内のさらに奥に(山腹に)あったのだとか。


裏手の墓苑: 晩秋の錦繡に包まれている▲

◆静謐に満ちた境内◆


参道入り口(寺号)を示す石塔

▲杉樹林に囲まれた参道

  寺伝によると開創は1556年。この年、一帯の領主、沢渡兵部盛田賢の母(祥玉貞麟尼)が庵を結んだことが開創の契機になったそうです。その後、1570年または1591年に、駒沢村(現大町市)にある大沢寺の和尚、魏州太鎮が大沢寺末寺として開山したのだとか。
  それから100年ほどは貞麟庵として運営されていたのですが、17世紀末までには寺格を認められて曹洞宗祥雲山貞麟寺と称されるようになったようです。
  開創・開山当初は禅庵として営まれていたとはいえ、沢渡や三日市場一帯の地頭領主の母堂が創始した寺だったのですから、沢渡家の菩提寺として手厚く帰依庇護され、相当の格式を備えていたものと思われます。

  ところで、両側に低い石垣を配した参道は、地面が苔に覆われているので、下諏訪の慈雲禅寺の参道を思い起こさせます。ここは、両側に杉並木がないので、明るく開放的な印象です。


▲盛夏の頃の苔の参道

▲参道両側の石垣が美しい遠近感を演出

▲豪雪地帯の本堂が剛健な造り

◆晩秋、錦繡に包まれた境内◆

  貞麟寺の境内は春には枝垂桜の花見の名所として大変に有名です。春の訪れが遅い冷涼な高原の山桜なので、人びとの心に沁みる花の美しさとなるようです。
  とはいえ、広い境内には枝垂れの山桜のほかにも見栄えのする植物がたくさんあります。たとえば梅雨の時期から秋まで花萼を保ち咲き続けるアジサイ。寒冷な気候で、しかも山桜の大木をはじめとする樹木の影に植えられているので、アジサイの萼は色あせながらも夏を越えて形を保ち続けるのです。


▲山腹から麓の水田まで錦繡に染まる

▲枝垂れ桜はすっかり落葉。冬が間近い

▲裏の墓苑からの本堂の様子

  北アルプス山麓にある境内には、晩秋の紅葉も早くやって来ます。10月の半ばごろから木々の葉は色づき始めます。私が訪れたのは、10月末でしたが、枝垂れ桜の紅葉は過ぎてすっかり落葉へと移っていて、ドウダンツツジの紅葉が真っ盛りでした。今年の気候はドウダンの葉にとっては絶好だったようで、平年よりも落葉も少なく、深紅の花のようにみごとな色合いに紅葉しています。
  ドウダンをはじめとする境内にある小さな樹木は、檀家からの奉納というか献呈によるもので、根元にネイムプレートが添えられています。

  一方、本堂の前に立つ大イチョウは、寒冷地でもあってまだ充分に日光を受けていないようで、まだ緑色が濃く、黄葉までにはまだ時日が必要なようです。


▲池の畔のドウダンツツジ

  見どころは、本堂などの堂宇の東側の境内だけではありません。本堂の裏庭や裏手の墓苑の周囲もまた、山の中腹に連なる斜面であるせいか、より野性味を帯びた晩秋の景観を呈しているのです。
  私は本堂裏手の池の近くに行ってみました。畔にはやはりドウダンツツジがあって、水面に黄葉を映しています。


古びた茅葺の納屋の前の道標で南転する

杉樹林のなかを進む

境内の手前にある古民家(今は無住のようだ)

境内入り口に立つ山桜の大木が紅葉している

参道脇のカエデの紅葉が目に飛び込んでくる

苔生す参道はどこかで見たような景観

石段の向こうから現れる本堂の姿が印象的

1975年の火災ののちに再建された本堂

寒冷地で枝垂桜樹下のアジサイは秋まで咲き続ける

広壮な堂宇は禅堂なのだろうか

燃えるように黄葉したドウダンツツジ

境内の小さな樹木は檀家の奉納によるもの

本堂と鐘楼

本堂裏の様子

裏庭には小さな池がある

本堂裏の樹林のカエデ

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