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長野県北安曇郡白馬村神城
奇妙な湿原地帯


▲初冬の親海(およみ)湿原: ドウカク山麓の湿原の縁(東端)にあるハンノキやハルニレ、ヤチダモの叢林から

  佐野村の南東に奇妙な地形の窪地があります。東御連山の東端の尾根とそれに続く佐野坂峠、そして峠から北に突出する丘に囲まれた低湿地です。湿原の美しさを眺めるなら春から秋に訪れるのが好ましいでしょう。
  しかし、ひねくれ者の私は、草紅葉もとうに終わっている初冬、11月後半に姫川源流自然探勝園(湿原)を散策してみました。冬枯れで樹木の葉が落ちて、湿原の草も枯れた頃の方が、湿原の地形がはっきり見えるだろうと思ってのことです。


▲湿原散策のための木道: 周囲の草は刈られている

  姫川上流を遡行すると、佐野坂の麓でほぼ2つの源流に分かれます。ひとつは遠見尾根東端の山腹をのぼっていく沢で、もうひとつは佐野坂下の丘陵に囲まれた窪地湿原の流れです。
  佐野坂峠の南には青木湖があって、峠山塊の内部の帯水層をつうじて、窪地の姫川源流部に水脈をおよぼしているのかもしれません。
  青木湖から白馬村神城南部にかけての谷間には、西側では鹿島槍ケ岳、五竜岳、唐松岳から、東側では権現山や太郎山などから、膨大な水が供給されています。佐野坂峠を境界線にして、北に向かっては姫川水系が流れ下り、南に向かっては高瀬川――犀川=信濃川の支流――とその支流群が流れ下っていきます。いずれも日本海に注ぎ出すのですが、佐野坂峠は「小さな分水嶺」をなしているともいえます。
  この峠の北側の麓の窪地にじつに奇妙で美しい湿原と森があるのです。今回はそこを探索してみます。


強い木枯らしが吹かなかったので、タチヤナギの群落はまだしぶとく黄緑の葉を保っている▲

◆冬枯れの湿原と森◆

  国道148号はさのさかスキー場駐車場横を過ぎると、姫川源流部湿原を回り込むように佐野坂峠の裾を東に曲がっていきます。駐車場にクルマを置いて国道の向かい側に渡ると、すぐに姫川源流自然探勝園に入ります。
  園の案内板によると、この佐野坂峠下の窪地は標高が745メートルなのですが、周囲の山岳から冷気が下降して溜まるうえに、土壌が貧養で弱酸性という厳しい生存環境なので、亜高山ないし高山性の植物が繁茂しているということです。

  自然探勝園は、東西と南北それぞれに700~800メートルほどの広がりで、北側を除く三方が丘陵で囲まれている窪地となっています。この窪地は、ドウカク山から西に張り出したなだらかな尾根丘陵によって、南北に仕切られています。南側が親海湿原で、北側が姫川源流湿原です。
  自然探勝園として保護される以前は、この一帯の丘陵地には杉が植林され、湿原の縁には水田があったようです。


▲親海湿原の縁に残る長方形の水田畔の跡

▲木道の曲がり角には踊り場がある

▲親海湿原をジグザグに進む木道

親海およみ湿原を歩く◆

  親海湿原は、繁茂密集している湿原の植物が冬枯れになって、かなり低いところまで見通しがよくなっています。木道を歩いて周囲を見渡すと、西方にはさのさかスキー場がある遠見尾根東端の山岳、南方には佐野坂峠、東から北にかけては峠から北に延びる低い丘陵が連なっています。
  湿原には、ひと月ほど前まではみっしり繁茂していたイネ科の植物の冬枯れ景色が広がっています。春から晩秋までは、水辺の植物群が密集して競い合っていたことが想像できます。
  初冬の風景の色合いもまた心に沁みわたってきます。高い山はすっかり冬色でやや黒みを帯びた赤褐色、山裾に下るにしたがって朱の色味が増していき、針葉樹はやや黒茶身を帯びた暗緑色、落葉広葉樹は白褐色ないし灰色の幹や枝を露わにしています。そして、湿原低地は黄褐色や白褐色。まだタチヤナギぼ叢林だけが黄緑色の葉をつけています。
  初冬の渇水期なので、木道は湿原の東端で岸辺の道となっていました。夏ならここも水辺だったでしょう。ハルニレやハンノキ、ホウノキなどが湿地を縁取るように叢林をなして杉林を取り囲んでいます。遊歩道にはホウノキの大きな落ち葉が降り積もっていました。


▲湿原の縁、杉林の日陰にはシダ類が枯れずにいた

▲湿原の畔の小径にホウノキの落葉が降り積もっていた


カラマツの落葉散り敷く森の道


姫川の沢はこの先で湿原の源流と合流する


小径の先を下ると湿原に入る


湿原を往く木道: 周囲の草は刈られている


北に張り出した尾根丘陵がドウカク山


木道の下の湿原:渇水期でも沼となっている


湿原の西にはさのさかスキー場がある山腹が迫る


湿原探索路は巧妙に折れ曲がっている


目前の尾根の奥には遠見尾根と五竜岳がある


▲湿原北東端では若い落葉樹が叢林を形成始めている: 植生は時間とともに変化している

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