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長野県北安曇郡白馬村神城
街道沿い、山裾の村


▲晩秋の佐野集落: 遠見連山 天狗岳の東端の尾根裾にある。この尾根の後ろに遠見連山の天狗岳が控えている。

  旧佐野村は日本海に注ぎ出す姫川の源流部に位置しています。村の南端には佐野坂という峠――比較的に緩やかな尾根――があって、この峠が大町市北端の仁科三湖(青木湖、中綱湖、木崎湖)がある高原との境界をなしています。
  白馬村は、西を北アルプスの山脈、東側を「東山」山塊に囲まれた複合扇状地からなる南北に細長い盆地をなしています。盆地の中央部を南から北に姫川が流れ、そこに東西の山脈から流れ下る支流群が流れ込んでいきます。


▲JR大糸線南神城駅から佐野集落中心部に向かう坂道と古民家

  白馬村の盆地を袋にたとえるなら、その南端にある佐野は――湿原を挟んで東側の三日市場、内山とともに――「袋の底」にあたります。佐野の南にある佐野坂峠を境にして、斜面の勾配は逆転し、流水が流れ下る方向も正反対になるのです。千国街道では、佐野は峠越えの起点でもあり終点でもある要衝だったのです。傾斜が緩やかだとはいえ、豪雪地帯の深い森におおわれた峠をこれから越える備えを用意し、逆にようやく峠越えを終えてきた疲労を癒す宿場だったのです。
  佐野、三日市場、これに内山を加えて3つの集落が並ぶ神城地区南端は、古くから安曇野を南北に縦断する交通の要衝として栄えていたようです。


「お堂様」と呼ばれる神事用倉庫(社殿)の脇を往く塩の道▲

◆峠の麓の宿駅集落◆


▲この辺りの典型的な古民家

  千国街道の遺構は沢渡の南端で杉樹林のなかに埋没してしまっているので、私は林の西を回り込む小径を進んで南神城駅の前を通って、佐野集落に向かうことにしました。樹林に陽射しを遮られた薄暗い小径は、昔の街道の様子に近いかもしれません。
  ところが、杉林を出ると晩秋明るい陽射しが輝いています。南神城駅の近辺には金属板を被せた茅葺古民がいくつか残されていて、敷地内には白馬村に特有の、壁の外に屋根を支える木枠を設けた土蔵もあります。

  南神城駅は尾根裾の小高い斜面にあるので、佐野集落の中心部には坂を下って行くことになりますが、この坂道は湾曲して東向きになって千国街道と交差したのち、さらに国道148号に合流します。
  私は千国街道を南に歩いて集落の中心部をめざすことにしました。街道はふたたび国道と並行するようになりました。
  街道を歩いているうちに、佐野村の中心部辺りには小さなお堂や社殿がいくつかあることに気がつきました。


▲道祖神脇から塩の道を振り返る

▲小さなお堂がひとつ上の村道の脇に見える

▲小堂の前まで行ってみた

◆氏族ごとの小堂や社殿◆

  集落の中心部には「お堂様」と呼ばれる小ぶりの社殿があって、その前は村道が何本か交差する広場となっていて、道祖神も置かれています。どうやら村の祭事の拠点(中心)となる場所のようです。
  広場のすぐ近くには小さな社殿が2つ、30メートルほどの近い距離で設けられています。近隣のおばあさんに出会って話をうかがうと、佐野村では同じ姓を名乗る一族ごとに、小さな社に氏神様を祀っているとのこと。
  また、社殿のほかに寺院風の小堂もあって、それもやはり氏族の霊を祀る場所なのだそうです。そして、「お堂様」と呼ばれる社殿風の建物は、村の祭事にさいに使う幟などの神事用品を保管しておく倉庫だということです。


▲「お堂様」の脇の石仏群

  「お堂様」の隣の小丘上には数多くの石仏や石塔が集まっています。これも石仏群なのでしょう。これと向き合うように、道祖神もあります。今は村道の五差路交差点となっているのですが、かつては「お堂様」の前には祭事や集会用の広場(祈りの場)があったのでしょう。


杉林脇の道。この小径の先に南神城駅がある。

駅の南側の集落の古民家「

白馬村に典型的な土蔵

正面の尾根の麓は三日市場村


塩の道を南に向かうことにした

塩の道が集落中心部に近づいた

丁寧に維持されている古民家

「お堂様」と呼ばれる社殿

1871(寛政年間)年建立の佐野村中道祖神

集落中心部にたつ氏神社

30メートル離れたところにある別の氏神社


▲集落の上の山裾斜面は杉森になっている

  佐野村でも集落のすぐ上のなだらかな山裾斜面は杉森林となっている。昭和30年代以降、政府(当時農林省)の――経済成長に見合った住宅建設需要を見越した――林業政策にしたがって大がかりな植林がおこなわれた。
  山裾の斜面は集落に近くて作業がしやすいということで、それまで主に茅場だったところを杉の森に転換したのだという。ところが、政府(当時通産省)の貿易政策・産業政策は林業政策とひどく矛盾していて、工業製品輸出で獲得した外貨での建築用外材輸入を推進したことから、品質も高いが価格も高い国内杉材の需要が激減してしまった。
  そのため、杉山林の経営は行きづまって、間伐などの管理や伐採製材がおこなわれなくなって、放置状態の森林ばかりになってしまった。こうして、スギ花粉症の蔓延と土砂災害に弱い山林の続出という事態がもたらされることになった。
  ・・・佐野村の高齢者はこう話して嘆いていました。外見上は牧歌的で美しい杉山林には、こういう悲劇的な歴史が背景に横たわっているのです。

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