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長野県木曽郡大桑村
 
 
茶屋町から仲町まで


ヒノキやサワラの丸太をくり抜いて宿場用水を溜めておく水舟。背後に立つ正岡子規の歌碑:
夜半よわを いかにあかさん 山里は 月出つるほどの 空だにもなし」

  上の写真は「水舟」と呼ばれる木曾路南部の名物です。ヒノキやサワラの2~3メートルほどの丸太の片側をくり抜いて「流し水槽」として、そこに宿場用水や湧き水を溜める設備です。
  江戸時代には、ヒノキやサワラは「木曾五木」と呼ばれ幕府や尾張藩によって伐採や使用を厳格に禁止されていました。そのため、このように水槽代わりに用いることはできまぜんでした。ただし、漆器や櫛、下駄など木工品を製造する地場産業がある集落や宿場には、幕府や藩から相当量の木曾五木が原材料として無償で供与されました。
  したがって、水舟がつくられて観光名物となったのは、近代以降のことです。ことに昭和中期からは、日本が工業製品を輸出するために木材輸入を自由化して安価な外材が出回ったので、品質が高い木曾の木材の需要は激減してしまいました。
  地元の材木業・観光団体は、木曾の銘木の良さをアピールするために、このような水舟を宿場街に設置するようになったようです。水舟は妻籠宿尾又の中山道脇にもあります。

■氾濫水害後に再建された宿場街■

■茶屋町から仲町まで■


二階の丈が低い造りが伝統的な町家の建築様式だ


宿場の最も一般的・平均的な町家は間口3間だった

  とりあえず、須原宿の西端の茶屋町から仲町まで探索してみましょう。茶屋町とか仲町・本町という街区名は、江戸時代にはなかったはずです。上町・中町・下町という街区があったようです。
  上の写真は幕末からの仲町の町家で、須原宿で最も標準的で一般的であった間口の町家を表しています。間口は3間(5.4m)です。本陣の間口が10間(18.2m)で、脇本陣が9間半(17.3m)、そのほか有力な旅籠や店舗などは間口7間(12.6m)ないし8間(14.4m)でした。一方、奥行きは家屋の背後の地形によって違っていて、本陣や脇本陣、旅籠などは20間~25間、つまり40メートル近くかそれ以上もあります。


  屋敷地の背後に山腹や段丘が迫っていれば、奥行きは小さくなります。ただし、奥行きの深い短冊形の屋敷地を2つに割って、表通りの店舗町家の裏手にさらに別の1棟の居宅がある場合もあります。
  このように、宿場街では街道に面した間口が狭く、奥行きが深い短冊形の街割り(敷地割り)になっていました。そして、各住戸の年貢(税賦課)は間口の大きさに比例していたので、富裕で有力な家門が間口と奥行きが大きな敷地を保有していました。
  また、表通り側は人の往来が頻多なので、そこにできるだけ多くの店舗を並べて客商売にチャンスを均等に与えて、街の繁栄をはかるため、という理由もあったようです。


電柱辺りまでが茶屋町区だろうか


宿場の西端から200メートルほどの地点から東の景観

  ここまで歩いてきて観察した須原宿の古民家について特徴をまとめてみましょう。
  今の呼び名で茶屋町と仲町には、幕末から明治前期に建てられた古民家が多く残されています。江戸時代の須原宿で最も標準的だったのは、間口3間という町割り(敷地割り)でした。
  とはいえ、富裕で有力な旅籠は、間口6間、7間、8間という間口のものが多くあって、この宿場は相当に豊かで発達した街並みをなしていたようです。そういう旅籠は、丈の高い二階をもっていたのに対して、木工職人や小店舗は厨子二階造りで二階の天井が低く、軒近くでは高さが2尺ほどしかなかったようです。したがって、屋根裏を物置として利用することになっていたようです。
  街道に面した小店舗は間口が3間で奥行きも4間のほどの広さで、店貸たながしされていたようで、裏手に家主が住んでいたようです。資産があまりない者でも、技術や商才があれば職人工房や店を営むことができたわけで、それだけ商業的に発達していたと見られます。家主の家族が店舗を営む場合もあったでしょう。 やはり、定勝寺という有力で有名な禅刹があった門前町だったからでしょうか。


棟入様式の大棟造り古民家は、中山道に特有の出梁造りでもある▲
昭和期に街道側をガラス窓に改装したと見られる


出梁造りの家並みの背後(西方)の樹林は定勝寺の境内の杜▲


手前は「民宿すはら」で、江戸時代には有力な旅籠だった▲


この辺りの左側(北側)には、有力な旅籠屋が軒を連ねていたらしい▲


街道北脇の家並み:平屋ではなく、厨子二階造りで、二階は物置だった▲


この辺りから西が茶屋町らしい。街道に立って東方を眺める。▲


宿場西端から220メートルほどで街道は緩やかにカーヴする▲

カーヴを曲がってから来し方(西方)を振り返る▲

仲町の街道南側の家並み: 水場に水舟が設置してある

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